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ノーベル賞受賞スペシャル・第2弾
第1306回 2015年12月20日


 祝!ノーベル賞受賞SP第2弾!宇宙の神秘「ニュートリノ」の科学。
 今回は自称日本テレビで一番科学が大好きだという桝太一アナウンサーが、梶田教授の「ニュートリノ振動」を分かりやすく解説します!

 梶田隆章教授は埼玉県・東松山市出身。1981年東京大学大学院に進学後、戸塚洋二さんや、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんなどに師事しました。今回ノーベル物理学賞を受賞した、ニュートリノに質量があることを示す「ニュートリノ振動の発見」は、1998年の発表当時から、これまでの常識を覆す、世紀の大発見と言われた偉大な研究です。そして2015年。めでたくノーベル賞を受賞されたんです。

①ニュートリノって何?

 そもそも、ニュートリノとはどんな意味なのか?新しいトリノ「ニュー」「トリノ」ではなく、実は「ニュート」「リノ」なんです。正式には「ニュートラルな」「イノ」。「ニュートラル」とは「中性の」という意味で、「イノ」はイタリア語で小さいものという意味。なので、ニュートリノを直訳すると「中性の小さなもの」という意味になります。宇宙で最も小さくて、なおかつものすごくマイペースに突っ走っているという、おもしろい粒子なんです。
 どれくらい小さいかというと…、ヒトを分解すると「細胞」でできている→細胞を分解すると「アミノ酸」という分子からできている→アミノ酸を分解すると、水素や炭素などの「原子」でできている→さらに、原子の中央に「原子核」がある→原子核を分解すると「陽子」と「中性子」でできている→さらに陽子と中性子を分解すると「クオーク」と呼ばれる物体でできている。
 現在の科学ではこれ以上分解することはできないので、このクオークなどは全ての「素(もと)」になる粒子という意味で、「素粒子」と言います。素粒子は現在12種類あって「ニュートリノ」は、この素粒子の中の3種類。そしてニュートリノはこの素粒子の中でも、特別に特別に小さい存在だと言われています。例えば、原子核の中にある「陽子」を地球サイズまで拡大した場合、ニュートリノは「米粒」ほどの大きさになります。もの凄い小さい陽子よりも、更にもの凄い小さい粒子であることがわかります。
 こんなに小さいニュートリノには、何も遮るものがありません。どんな物質もニュートリノに比べたらはるかに大きいので、どんな物質でもスカスカ通過しちゃうんです。例えば、手の平には1秒間におよそ数兆個のニュートリノが通過しています。そんなニュートリノの観測を可能にしたのが「スーパーカミオカンデ」なんです。

所さんのポイント
ポイント1
ニュートリノは何でも通過するので幽霊粒子とも呼ばれているのだ!


②ニュートリノを観測する「スーパーカミオカンデ」とは?

 桝アナが訪れたのは岐阜県飛騨市にある神岡町。スーパーカミオカンデへの入り口は、ある山の中に。今回特別に施設内を案内して頂くニュートリノを研究している専門家・中畑雅行教授と内部を見学します。
 暗闇の坑道は、岩肌が露出したまま。山の湧き水が滴り、まるで異世界の入口のよう。暗闇の洞窟を車で進むこと15分…暗闇の中突如現れたのが、まるで秘密基地のようなスーパーカミオカンデの入り口です!この扉の奥に巨大な空間があります。高さおよそ16m、直径およそ40mの広大な空間には、精密機械に繋いでいるケーブルがズラリと並んでいます。
 実は、スーパーカミオンデは、池の山という鉱山の中にあります。ここは山の頂上から真下に向かって1000mの深さの地下。この下に、直径およそ40m、深さおよそ42mの巨大な円柱型をしたスーパーカミオカンデがあるんです。
 なぜ、わざわざ山の中に作ったのでしょうか?中畑教授によると、宇宙には、宇宙空間を自由に飛び回る「宇宙線」という粒子があります。この宇宙線が、地球の大気とぶつかると、その一部は「ニュートリノ」になります。しかし、地表に降る宇宙線には、他の粒子も混ざっています。そこで利用したのが、ニュートリノの「何でも通り抜ける」特徴。山をフィルター代わりにすることで、ニュートリノだけを効率よく計測できるようにしたんです。
 でも、ニュートリノは極小で何でも通り抜けるなら、スーパーカミオカンデも通り抜けてしまうはず。そこでポイントなのが「水」。実はスーパーカミオカンデの中は、5万トンもの水で満たされています。この大量の水こそが、なんでも通り抜けるニュートリノの観測に、重要な役割を果たしているんです。水の中にある水素や酸素といった原子に、まぬけなニュートリノが『たまーに』ぶつかると、肉眼では絶対に見えない程のわずかな光を出します。
 この光を「チェレンコフ光」といいます。この光をキャッチすることで、「いまニュートリノが通過した!」という現象を観測できるんです。

所さんのポイント
ポイント2
スーパーカミオカンデを山の中に作った理由。それは、ニュートリノの不思議な特徴をうまく利用していたのだ!


③ニュートリノが通過した痕跡「チェレンコフ光」を見る方法

 スーパーカミオカンデでは、肉眼では絶対に見ることができない、わずかな光「チェレンコフ光」を計測するために、ある機械を使っています。
 それが「光電子増倍管」。光電子増倍管とは、光を増幅する機械のことで、直径50センチのガラス表面で感知した光を1000万倍にまで増幅できるといいます。この検出器、どれだけすごいのかというと…懐中電灯を持って月に行ったとします。地球にある光電子増倍管に向かって、懐中電灯を「チカッ」と1回光らせるだけで、その光を感知できるんです。そんなもの凄い検出器が、スーパーカミオカンデの中には、11,129本も取り付けられています。
 さらに、常に5万トンもの大量の水で満たされているので、スーパーカミオカンデではチェレンコフ光を24時間計測し続けることができるんです。
 続いて、スーパーカミオカンデの心臓部を見せていただきました。ここではスーパーカミオカンデで使われているすべての機器が、正常に動いているかをチェックしています。そこには、チェレンコフ光の計測データがリアルタイムで映し出されていました。実は、チャレンコフ光は「リング状」に光を放つことが知られています。そのため、この光を水槽のどこで計測したか分かりやすくするため、円柱形を展開した状態の図で映し出していたのです。ちなみに、データに表示される、点の1つが、光電子増倍菅1つのデータを示しています。そして、色が青から赤になるほど、より強い光を観測したことを示しています。ニュートリノは、その種類によって、リングの形や、光の強さが異なるため、「方向」「形」「強さ」など、様々な要素を計測する必要があるんです。

所さんのポイント
ポイント3
ニュートリノの計測は、超最先端技術が支えていたのだ!


④スーパーカミオカンデの実験で梶田教授らは何を発見したのか?

 梶田教授らは、スーパーカミオカンデを使って、今回3種類のニュートリノのうちミューニュートリノを詳しく観察しました。すると「ある不思議な現象」が分かってきました。

 その現象を説明する前に、まずは、ニュートリノのことをおさらいしましょう。

1.地球上には、どの場所でも同じだけの宇宙線が降り注いでいるので、そこから生まれるニュートリノは、どの場所でも同じ量です。なので、スーパーカミオカンデがある場所でも、地球の反対側でも、同じ量のニュートリノが地球に降り注ぎます。

2.ニュートリノは、お構いなく何でも通り抜けるので、地球のどの方向から来てもスカスカ通過します。

 ということは、スーパーカミオカンデに「上から降ってくるニュートリノ」と「地球の反対側の下から入ってくるニュートリノ」の量は同じになるはず。しかし、なぜか、スーパーカミオカンデで観測したミューニュートリノは、上からに対して下からは、たったの『半分』しかなかったんです!

 ニュートリノは絶対に減ることはありません。どこかで曲がったり、到達できなかったということはあり得ません。この「不思議な現象」を分析すると、『スーパーカミオカンデに到達する途中で「別の種類のニュートリノ」に変化した』という結論に至ったのです!
 つまり、3種類あるニュートリノの1つ「ミューニュートリノ」は、地球を通っている間に種類が変化して、スーパーカミオカンデに入るとき、たまたま別の種類のニュートリノになっていたことを、観測結果は示していたのです!  ちなみに、この『ニュートリノが途中で種類が変わる』ことを『ニュートリノ振動』といいます。そしてこの発見は、もう一つの偉大な発見を導きました。
 それは『ニュートリノに重さがある』ということ。そもそも重さがないものは、絶対に振動は起こさないので、逆にいえば、振動を起こすニュートリノには重さがある、ということが証明されたのです。
 これまでの宇宙の常識では、ニュートリノには重さがないというのが大前提でした。「ない」はずのものが「あった」とわかった結果、宇宙の常識をゼロから覆しました。梶田教授の発見は、まさに世紀の大発見だったんです!
 最後に、今回の「ニュートリノ振動の発見」は、現段階で、すぐに私たちの生活に役立つというものではありません。ただ、ニュートリノは、宇宙が誕生した138億年前からある物質なので、ニュートリノの解明が進めば、もしかすると宇宙創生当時の様子がわかってくるかもしれないんです。

所さんのポイント
ポイント4
ニュートリノ研究は、宇宙の神秘の解明に繋がるかもしれないロマンチックな研究なのだ!




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