美術館
の科学
第1310回 2016年1月24日
人であふれかえる人気のおでかけスポット、美術館!
中でも、人気ランキング1位に輝く美術館、それはどんな場所なのか?新メンバー・渡辺裕太さんが直撃!そこには一カ所に集まるはずのない名画が大集合!なんと!置かれているのは本物の絵じゃない!?
今回の目がテン!は「美術館の科学」!本物じゃないのに大人気の美術館、その謎に迫ります!
①世界中の名画が集結!原寸大レプリカの迫力
東京から飛行機と車を乗り継いでおよそ1時間半。渦潮で有名な徳島県鳴門市。自然に囲まれた広大な土地に建つ地下3階地上2階の巨大な美術館!ここが、「行ってよかった美術館ランキング」で1位に輝いた大人気スポットなんです。
その魅力を探るため、絵画のプロにも同行してもらいます。西洋美術史の専門家、宮崎克己教授。ブリヂストン美術館で副館長を務め、現在は、大学で西洋美術史を教えています。実は、レプリカは嫌いという先生…。さらに、一般的な美術館の倍以上の入館料。益々先生の見る目が厳しくなりました…。絵画に疎い渡辺さんは、本物の絵が載っている本を持ち、いざ鑑賞スタート!
いきなり目にしたのは、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」。この絵の最大の特徴は少女が巻いたターバンの青い色。当時、純金と同じくらい高価だったラピスラズリという鉱物を使った顔料が使われており、普通の印刷では、その微妙な色合いが再現できないと言われています。このレプリカを見た宮崎先生は…「一目見て、青が出てるという気がしましたね。かなり(原画に)接近しているように思います」と、難しい色がよく再現できていると高評価!さらに…言わずと知れた、レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作「モナ・リザ」。ルーブル美術館にある原画は、囲いと防弾ガラスに覆われ、遠目にしか見ることができませんが、こちらでは、目の前まで近づけます!すると宮崎先生、絵の下側にある黒い部分がよく再現できているというんです。画集などの印刷では再現しづらいという黒の部分。原画は、黒の微妙な色の変化で立体感や遠近感を出していますが、こちらのレプリカはその部分が原画に非常に近いといいます。
さらに、縦6m、横10メートル近くもある作品「皇帝ナポレオン1世と皇后ジョセフィーヌの戴冠」のサイズも原画と全く同じ!実は、この美術館にある作品、全てが原寸大のレプリカ!そして、バチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂。
ミケランジェロが描いた壁画が、礼拝堂の空間ごと、ほぼ原寸大で再現されているんです。天井は、"天地創造"、正面の壁は"最後の審判"。迫力そのままに再現。レプリカ嫌いの宮崎先生も「空間そのものが一つの作品だといってもいい。絵一枚一枚ではなく、全体を再現したのは面白い」と驚きの様子。
大人気の美術館では、プロも納得の質の高いレプリカで、世界の名だたる名画をまとめて鑑賞できるのだ!
②本物ではありえない、陶板ならではの驚きの展示
滋賀県信楽町。タヌキの置物で有名な、焼き物の町です。この街にある工場で名画のレプリカが作られています。モネの「散歩、日傘をさす女」を作る工程を見せてもらいました。
土台となるのは、陶器の板、陶板。まずは本物の絵の写真データから筆跡の凹凸がある部分を抜き出し、焼き物用の絵の具を使って陶板に写します。それを窯に入れて絵の具の盛り上がりを焼き固めます。こうして出来た絵の具の凹凸をガイドに、職人さんが手作業で、本物と同じような細かい筆跡をつけていきます。ちなみに、この絵の特徴は、光の表現。特にスカートの後ろにできた逆光に、強い筆の跡が残っています。画家のタッチを読み取りながら筆跡を再現していきます。こうしてできた陶板の上に、「転写紙」というフィルムを使って絵を貼っていきます。例えば、絵を印刷する場合…。原画の写真資料を分析し、混ぜられている色を分解。その色を焼き物用の絵の具を使って、再現して印刷していきます。こうして転写紙が完成。一気に貼るとズレてしまうので、つなぎ目が目立たない場所を選び、半分ほどに切って水の中へ。すると、絵の具の部分だけがシート状になって浮き上がります。これを陶板に乗せ、あらかじめ付けておいた目印に絵をピッタリと合わせます。あとは転写紙の台紙を抜き取り陶板に貼りつけるのです。もう半分も同じように貼り、つなぎ目が見えないように、しっかりと合わせます。凹凸と絵を隙間なく合わせないと、立体感が生きてこないため、入念に押さえ込みます。
続いて、長さ50mもある窯の中へ。長い窯の中をゆっくり移動させながら8時間かけて焼き、絵を陶板に完全に焼き付けます。こうして完成。精巧なレプリカは原画の写真を使った焼き物だったんです。その技術のおかげで、なんとレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」の修復前と修復後、2枚の絵の再現もできるんです。イタリア・ミラノにある原画は、修道院の中に書かれた大きな壁画です。1498年に完成したこの絵は、保存環境が悪く、痛みがひどかったため20年以上掛けて元の状態に修復。修復前の姿を原寸大で再現し、修復後と同時に比較できるのは、陶板名画ならでは。他に類を見ない歴史的資料としても評価を受けているんです。
さらに、中庭に出ると…。モネの大作「大睡蓮」が!原画がある、パリのオランジュリー美術館では、「作品を自然の光の中で見てほしい」と願っていたモネの意思をくみ天井の窓から自然光が入る部屋で、壁一面に「睡蓮」を展示しています。
大塚国際美術館では、その展示を、文字通り屋外の自然光の中に再現。雨風や紫外線を浴びても、色あせず、計算上、2000年ほど状態を保つ、陶板ならではの大胆な展示です。最初はレプリカに抵抗を持っていた宮崎先生は、「クエスチョンマークを持ちながら入ってきたけど結構納得した。やっぱり原寸大にしてるっていうのはかなり意味があって、空間まで原寸大だからね。そこにいる、体験してるっていう感覚がそのまま伝わってくる」とレプリカ美術館に感心しきり!
③本物とレプリカの名画。脳波で人気の秘密を検証
レプリカの絵で、人は心を動かされるのか!?それを探るべく、こんな実験!脳神経に詳しい甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科の辻下守弘教授協力のもと、美術館を訪れたお客さんに脳波計を付け、絵を見た時の脳波の様子を観察します。実験は、β波とα波、2つの脳波を見て、脳の状態を観察。緑色の時は、リラックス、赤の時は、興奮の状態を示します。まずは比較のため、本物の絵が展示されている美術展で実験!
「睡蓮」をはじめ、モネが描いた本物の名画がずらりと揃った「モネ展」。モネの絵が好きだという男女4人に協力してもらい実験開始です!鑑賞を始めると、最初の絵を見て興奮状態に。しかし、すぐにβ波、α波ともに落ち着き、リラックス状態になりました。その後、鑑賞をすすめるうちに、ほぼリラックス状態に。目にして少し驚いたのは、モネの代表作「睡蓮」。絵を見た瞬間は少し興奮するものの、ほぼリラックスという状態で実験終了。名画に癒されて思わず涙が…。続いて男性は、有名な絵を目にして興奮状態。しかし、先ほどの女性と同じく、すぐさま興奮状態からリラックスに変化。ほとんどの絵を見てリラックスしていました。残りの2人も同じように脳波を計測。結果、本物を展示する「モネ展」では、4人中3人が、「興奮」よりも「リラックス」の脳波の割合が多かったんです。
ならば、レプリカの絵ではどうなるのでしょうか?お客さんに協力してもらい、実験開始です!フェルメールの展示室に入った途端、いきなり「興奮」の脳波が!さらに…常に興奮の脳波が出っぱなし!その後も、絵を見ている間はほとんど「興奮」状態のままだったんです。続いての男性も、やはり「興奮」の脳波が強く、「モネ展」に見られたような、リラックスへの変化は、ほぼ見られませんでした。4人のお客さんの計測を終えた結果、なんと4人全員、「興奮」の脳波が圧倒的な割合を占めていました!この結果に教授は、「モネの絵は、最初は驚き、興奮があるけれど、その後緊張が取れて絵に食い入る、絵自体を鑑賞する。非常にリラックスされる方が多かった」と分析。本物の絵が放つ魅力に引き込まれていたのではないかといいます。一方…大塚国際美術館について、教授は「アトラクションを味わったように、興奮とビックリ驚き、そういう体験。こんなところにこんな絵がある、驚き。最終的に終わった後、楽しかったなあという感想が強い」と分析していました。
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