○○すぎる動物
の科学
第1343回 2016年9月25日
秋本番を迎えるこの時期は…まさに動物園日和!中でも、お目当ての動物は…ラクダやキリンなど、どれも体の"ある部分"が特化した動物たち。
そんな中…いま思いもよらぬ場所が進化した動物たちが人気なんです。
今回の目がテンは…ちょっと気になるアニマル図鑑!「○○すぎる動物たち」を科学します。
①オニオオハシの"巨大クチバシの役割"を検証!
訪れたのは、静岡県にある「掛川花鳥園」。およそ130種もの鳥を飼育しているこちらのテーマパーク・・・来園者は柵のない展示スペースで、鳥たちと直接ふれあうことができます。
なかでも、ひときわ目を引くのが・・・「オニオオハシ」と呼ばれる鳥。
実は、先日行われたオリンピックの開催地ブラジル周辺の森や川に生息しており、そのカラフルで美しい体色から、"アマゾンの宝石"とも呼ばれています。最大の特徴は・・・やはりこの大きなクチバシ!骨格標本で見てみると、圧倒的アンバランス!実は、鳥類の中で「体に対するクチバシの割合」が最も大きいんだとか。そんな"大き過ぎるクチバシ"がゆえに、ちょっぴり不便なことも…例えば…エサを食べるときには…横を向き、エサの位置を確認してからエサに近づきました。自分のクチバシが邪魔でエサが見えないため、わざわざ首をひねり、エサを確認しなければいけないんです。さらに不思議なのは…エサの"食べ方"。一般的に、鳥はクチバシでエサをついばみ、そのまま食べますが、オニオオハシは…クチバシを使ってエサを一度放り投げ、飲み込んでいました。そんな器用なオニオオハシですが、時には悲劇が起きることも…。エサをくわえた野生のオニオオハシ。ここから得意の"放り投げキャッチ"ですが…クチバシが大きすぎて枝をキャッチしてしまいました…。クチバシが大きすぎるのは悪いことばかりなのでしょうか?それに対する答えとして2009年にカナダのタッターサル教授が、オニオオハシのクチバシに関する"ある説"を検証しました。それが…「放熱説」。通常、鳥は汗をかくことができない為、呼吸を激しくしたり、翼を広げることで体温を下げます。しかし、タッターサル教授によると、オニオオハシはクチバシに流れる血流量を調節することで、体温を下げているというのです。そこで!暑くなるとクチバシで体温を下げるのか検証です!検証に使うのは、オニオオハシの体温を測るサーモグラフィ。まず、室温がおよそ25度の時、オニオオハシの表面温度は…クチバシもカラダも、ほとんど室温と同じ温度であることが分かります。ではそこから、飼育員さん立ち会いの下、室温を野生のオニオオハシが暮らす"熱帯雨林の気温近く"まで上げていきます。すると、およそ4分半後…室温が29℃の時、クチバシも体の表面も約33℃まで上がりました。ここから、クチバシと体表に大きな差が生まれます。
室温が31℃の時、体表の温度は先ほどと同じ33℃ですが、クチバシの温度はさらに上昇していきます。そして、最終的に室温が31.3℃に達した時…体の表面に比べ、クチバシの方がなんと4℃も高くなっていました!これこそ、オニオオハシがクチバシで体温を調節している証拠なんです。オニオオハシは、気温が上がったり、運動したりして体内に熱がこもると、熱い血液をクチバシに送り込みます。そして、熱くなったクチバシを空気にさらすことで熱を発散させ…冷えた血液を体内に戻して体温を下げていたんです。
オニオオハシの巨大なクチバシには「体温調節の役割」があったのだ!
②オニオオハシと恐竜との"意外な共通点"とは?
今から1億年以上も前…北米に生息していたとされる恐竜「ステゴサウルス」。このステゴサウルスとオニオオハシをつなぎ合わせたのが…恐竜研究者の林昭次(大阪市立自然史博物館)さん。
現在、林さんのチームが日本で唯一行っている研究というのが…化石の骨を切断して、中の構造を直接観察し、現在生きている動物の内部構造と比較することで"恐竜など絶滅動物の実像に迫る"という手法。
化石の表面だけでは知ることのできない情報を得るため、世界各地の博物館と何度も交渉を重ね、恐竜の化石を切断してきました。
この研究からどういうことが分かってくるのか?例えば、ステゴサウルスの足のスネの骨をスライスした断面をよく見てみると…骨に年輪の様なものが刻まれていることが分かります。そして、年輪と年輪の間隔を調べると成長スピードが分かってきます。
その結果…意外な事実が!「8mのワニと恐竜」がどのくらいかけて大きくなったかを比べてみたところ、爬虫類であるワニは50年間成長を続けてようやく体長が8mに達するのに対して…体長8mの恐竜は年輪が5本しかなく、5歳で8mになったということが分かったそうです。
つまり「現在の爬虫類の10倍くらいの成長スピードの差があった。恐竜は非常に成長が早い動物だった」という事実が判明したのです。
そんな、過去の見えざる事実を解き明かす、いま注目の研究手法。それが…"ボーンヒストロジー"。では、ボーンヒストロジーでオニオオハシとステゴサウルスはどのように繋がったのでしょうか?
林先生は、「ステゴサウルスの最大の特徴と言ってもいいこの背板。何の役割を果たしていたのか100年くらい論争が続いていた」と説明。
この板は防御のためなのか、自分を目立たせるためなのか、様々な説がありましたが…どれも決め手に欠けていました。しかし、オニオオハシとステゴサウルスのボーンヒストロジーがステゴサウルスの板の機能を明らかにする決め手になったと言うんです。林先生は、「ステゴサウルスの背の板を切ると非常に中がスカスカしていてたくさん血管が入っていたってことが分かりました。背中の板には複雑な血管のネットワークが張り巡らされていた」と解説。研究をしていたその時、林先生の頭の中でオニオオハシとステゴサウルスが結びついたのです!林先生によると、「オニオオハシのクチバシを切ってみるとステゴサウルスと同じようにたくさんの血管が張り巡らされていることが分かっている」と言うんです。
その血流が体温調節に役立っていることは先ほどの実験で明らか。
林先生は、「似たような構造を持つステゴサウルスの背中の板も放熱機能を持っていたのでは」と推測しています。
オニオオハシのクチバシが、これまで明らかにされていなかった"恐竜の謎"を解き明かす大きなきっかけになっていたのだ!
③テングザルの"平和な社会の秘密"とは?
つづいて訪れたのは「よこはま動物園ズーラシア」。ここにいる「○○過ぎるアニマル」というのが…東南アジアのボルネオ島に暮らす、鼻がとっても大きい猿。その見た目から「テングザル」と名付けられています。
飼育員さんによると、実は鼻が大きくなるのは大人のオスだけだと言うんです。では…なぜオスのサルはこんなに大きいのでしょう?
そこで…生息地であるボルネオのジャングルで、テングザルを観察すること3500時間以上!テングザル研究の世界的トップランナー中部大学の「松田一希」先生に聞いてみました。松田先生によると、テングザルの鼻が大きい理由として、"いくつかの説"があるそうです。
テングザルの鼻が大きい理由、ひとつめの仮説は…「シュノーケル説」。テングザルは天敵である猫科の動物から身を守るため、川沿いの木の上で生活をしています。敵が迫ってきたら、枝から枝へ飛び移ったり、川へ飛び込んで逃げるという珍しい習性があります。その時、鼻をシュノーケルの様に使うというのですが…メスや子供など鼻の長くないテングザルが泳いでいる様子も確認されているため…松田先生は、シュノーケル説は根拠の無い説だと言います。その代わりに近年、"有力な仮説"と考えられているのが「メスへのアピール説」。現在、この仮説を明らかにするべく、松田先生が日夜、研究を進めているそうです。と、ここで先生から気になる言葉が。松田先生は、「テングザルの社会が分かると、実はヒトの我々の社会がどうやって作られてきたのかということの1つのモデルになる」と話します。松田先生によると、テングザルがエサを食べている様子にそのヒントがあると言うんです。実は野生のテングザルの主食は木の葉っぱ。動物園でも基本的に、木の葉っぱをエサとして与えています。
しかし、テングザルは本当に好きで葉っぱを食べているのでしょうか?
実験です。まずは、葉っぱも食べるこちらのボウシテナガザルの「しまこちゃん」に、葉っぱとニンジンを同時に渡して、どちらを先に食べるのか?試してみます。すると…テナガザルは葉っぱよりも栄養価が高いニンジンを選びました。では、テングザルに葉っぱとニンジンを与えるとどちらを選ぶのでしょうか?まずは、ニンジンだけを与えてみると…すぐさま受け取り食べました。そして、葉っぱとニンジンを同時に与えると…ニンジンには全く目もくれず、葉っぱに飛びつきました。
松田先生によると、「葉っぱというのは森の中に非常に沢山ある資源。そのため、食べ物をめぐる競合が少ないんです。なので、同じ種の中で他の群れとの競合も少なくなるし他の霊長類とも競合がすくなくなる。それゆえにテングザルは非常に平和的なサルになっている。例えばチンパンジーだと自分とは別の群れに対しては非常に攻撃的なんです。時には他の群れの個体と出会って殺してしまうこともある。しかしテングザルにはそれが全くない」と解説。テングザルは異なる群れ同士が争うことなく同じ木にとまり、1つの"大きな社会"をつくることができるんです。これを「重層社会」といいます。
松田先生によると、「例えば人間でいうと最小の単位の群れは家族です。家族がいろんなコミュニティ、村や町などいろんなコミュニティを作っている」と言います。そして不思議なのは…進化のうえでは人に近いチンパンジーでさえ持つことのできない「重層社会」を、ヒトから遠いテングザルが獲得しているという点。これについて松田先生は、「重層社会の研究をしていくということはヒトの起源、我々がどこから来たのか、何者なのか、なんでこんな社会で暮らしているのかを明らかにしていくこと。それがテングザルの重層社会を研究することの意義である」と語ります。
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