知識の宝庫!目がテン!ライブラリー


お腹をヘコませる 科学
第1342回 2016年9月18日


 多くの人が悩む、ポッコリお腹。その原因の一つに、猫背など姿勢が悪いために、内臓が前にせり出してしまっていることが考えられます。その解消のためには、日常生活の心がけが大事だと言います。
 今回は、ダイエットではなく、正しい姿勢とおなかの内側の筋肉を刺激する呼吸法で内臓を正しい位置に戻し、ポッコリお腹を解消する方法を検証します。

①正しい姿勢とは?

 今回ご協力いただいたのはパラリンピック日本代表のトレーナーを務めた理学療法士の花岡正敬さん。まずは4年ほど前からポッコリお腹に悩んでいる男性を指導していただきます。
 ポイントは横から見た姿勢。人間の正しい姿勢時の重心の線は耳たぶ・肩・股関節・膝の皿の後ろ・くるぶしの2cm前。その正しい姿勢の線を、男性の体に当ててみると、耳が前に出て猫背になっていました。けれど背筋を伸ばし、前に傾いていた姿勢を正しただけで、ポッコリに見えていたお腹が、かなりすっきりして見えるようになったんです。
 正しい姿勢を維持するのに重要なポイントがお腹の中にあります。それは姿勢を支える役割を持つ筋肉で、中でも重要なのが腹横筋。コルセットのように、内臓を支えています。ところが、お腹には周りを取り囲む骨格が無いので、姿勢が崩れると骨盤も傾いて、内臓が押し出されることで、お腹がポッコリしてしまうんです。
 そこで、骨盤の歪みを正すためのストレッチをおこないました。この男性の場合、縮んで硬くなっていた腰の筋肉を1分ほど伸ばします。ストレッチによって、骨盤を元の位置に戻し、正しい姿勢になることで自然とお腹がへこんだように見えたんです。

【正しい姿勢のチェックのやり方】

 正しい姿勢のチェックポイントは横から見た時に①耳たぶ、②肩、③股関節、④膝の皿後方、⑤くるぶしが一直線上に来るように。五円玉に糸を通したものなどを使い、一直線になるように立つのが正しい姿勢です。


②"呼吸法"で腹横筋を鍛える

 「腹横筋」は、自分の意志で動かすことが難しい筋肉ですが、呼吸で重要な横隔膜と連動して動くので、意識して呼吸を行うことで鍛えられるとのこと。そんな腹横筋を鍛えられる呼吸法が「ドローイン」とよばれるもの。
 まず鼻から息を吸い込んで、お腹を膨らませ、そこからゆっくり息を吐きながらお腹をヘコませていきます。そして、そのまま呼吸を止めずに、その状態を30秒キープします。

【ドローインの詳しいやり方】

1.鼻から息を吸い込みおなかを膨らませ、口から吐きながらお腹をへこませる。
2.吐き切る寸前にお尻の穴を締める。
3.お腹をヘコませたまま、呼吸を止めずに30秒キープ。

最初は横になって行うとやりやすいそうです。


③姿勢&呼吸法を実践!

 検証に参加してもらうのは、ポッコリお腹に悩む主婦の前田さんと、4人のサラリーマン。期間は1週間。やってもらうことは2つ。1つ目は、正しい姿勢で過ごすこと。
 まずは、花岡さんの指導で正しい立ち方を身につけてもらいます。それでも気を抜くと、ついつい猫背になり前かがみの楽な体勢になりがちです。それを防ぐため、姿勢矯正バンドを全員に支給。姿勢矯正バンドをつけることで、普段から正しい姿勢を意識できるそうです。そしてもう一つが腹横筋を刺激するドローイン。これを1日につき、1回30秒を目安に最低5セット。いつでもどこでも、合わせて1日2分半。今回はダイエットが目的ではないので、期間中の"運動"と"食事"は普段通りです。
 主婦の前田さんの様子を見てみると、矯正バンドで姿勢を意識しながら掃除。洗濯物を干している時も、料理の時も背筋がちゃんと伸びています。さらに、お花に水をやりながらドローイン!何かをしながら、スキマの時間を見つけてはドローインを1日5回行いました。それ以外はいつもと全く変わらない生活。
 すると、1週間後の計測で、体重にはほとんど変化がなかったものの、5人中4人のおなか周りがへこみました。花岡さんによると、この方法は脂肪が厚すぎる人には効果が出にくいので、そうした人は、まず運動や適切な食事制限で脂肪を落とすことが必要なのだといいます。

 今回は、ダイエットではなく、内臓を正しい位置に戻し、ポッコリお腹を解消する方法を検証しましたが、余分な脂肪を落とし適正な体重を維持するためには何が大切なんでしょうか?

 順天堂大学の柳谷登志雄准教授に教えていただきました。大切なのは『有酸素運動』と『適切な食事制限』だといいます。

 「ドローインによりお腹をへこませるということには、腹圧を高めて一時的にへこませる効果と、ドローインを続けることにより腹圧を高めるための筋肉である腹筋(腹横筋など)の筋力を高めることで、日頃から腹圧を高めた奇麗な姿勢を維持することが出来るという効果が期待できます。しかしながら、日常生活でドローインを頻繁に行ったからといっても、それによるカロリー消費で内臓脂肪や皮下脂肪を消費することに関しては、多くは期待できないと考えられます。
 なぜなら、脂肪1kgを燃焼するためには、運動で7,200キロカロリーを消費する必要があるためです。7,200キロカロリーを運動で消費する場合、ランニングならば、1キロメートルのランニングで体重1kgあたり1キロカロリーだけしか消費することが出来ません。つまり、72kgの人が1キロをランニングすると消費カロリーは72キロカロリーを消費しますので、脂肪1kgをランニングで燃焼するためには、100kmのランニングをしなくてはならないということになります。したがって内臓脂肪によるポッコリお腹の人には、ドローインだけでは根本的な解決は難しく、ランニングやウォーキング、あるいはサイクリングといった有酸素運動が必要であるといえます。
 また、私たちは日々の食事によりエネルギーを摂取しますが、摂取したエネルギーよりも運動などにより消費するエネルギーが少ない場合、過剰に摂取した分は皮下脂肪としてカラダに蓄積されることになります。これを逆に捉えると、食事で過剰なカロリーを摂取しなければ、運動で消費するのと同じ効果を得ることが可能となります。例えば、コンビニで買える菓子パンにはおよそ500kcalのエネルギーがあります。これと同じカロリーをジョギングで消費するためには、体重が50kgの人であれば10kmのランニングが必要となります。ランニングをする時間のない人、あるいはしたくない人は、食事やおやつでこのようなものを食べるのをやめれば、ランニングをしたのと同じ効果が得られると考えることができるわけです。

 日本は勿論のこと、世界の先進国では、中高年層を中心に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)の人が増加しています。内臓脂肪が何故危険かというと、内臓脂肪からは毛細血管を通して血管を固くする成分、あるいは血管を詰まらせる成分が流れ出るためです。これらは脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしますし、糖尿病を始めとする成人病になる危険も考えられています。したがって、内臓脂肪型肥満の方は、ドローインで単に姿勢を正す習慣をつけるだけではなく、内臓脂肪そのものを解消することを考える必要があります。」

 内臓脂肪によるポッコリお腹でお悩みの方、柳谷准教授が推奨する『有酸素運動』と『適切な食事制限』を、ぜひ試してみてはいかがでしょう。



人間科学編へ
前週 次週
ページトップ

ジャンル別一覧 日付別一覧
番組に対する、ご意見、ご感想等ございましたら、番組メールボックスの方にお寄せ下さい。
宛先は、 megaten@ntv.co.jp です。
原則、質問にはお答えできませんが、頂いたメールは、番組スタッフが閲覧し、今後の番組作りの参考にさせていただきます。