東京都民にはなじみの深い川である多摩川。その総延長は138km、総流域面積は1240平方km、長さでは全国で第49位の中規模河川です。しかし、東京・川崎という超都心部を流れるため、流域の総人口は320万人!人間との関わりがもっとも深い川なのです。
多摩川の河口部分は、一日に640便が離発着する東京の表玄関・羽田空港のすぐ近く。そこで、矢野さんはボートに乗って、河口からさかのぼってみることにしました。改めて河口をじっくり眺めてみると、そこには意外にも自然が残されていました。羽を休める鵜や、カモメやサギの姿が見られ、干潟に息づく生物の姿が見られたのです。
そこでさらに、多摩川をさかのぼってみると、河口から13km・名高き田園調布のあたりに、調布堰という工業用水を取水する堰があります。生き物を調べるため、漁師さんにたのんで、このあたりで投網を打ってみました。すると、コイやフナに混じってボラやマルタなど、海に住む魚がかかってきたのです。いったいどうして?実は河口から13kmでは、海水と淡水が混じる汽水域と呼ばれる部分で、海水の塩分濃度3%に対し、わずか0.9%しかありません。体内の塩分濃度とほぼ同じ汽水域は魚にとってとても過ごしやすい場所なのです。
| 汽水域は魚たちのパラダイス! |
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続いてやってきたのは河口から25km、聖蹟桜ヶ丘のあたりです。このあたりは海の鳥と山の鳥両方が住む、いわば鳥の境界領域で、多くの鳥を観察することが出来ます。矢野さんが見ていると、なんと、多摩川でタモを持って魚捕りをしている人が!そんなものでいったい何が捕れるのか?さっそく拝見させて頂くと・・・オイカワの稚魚やドジョウ、ザリガニやスジエビ、ヨシノボリなど、様々な生き物に出会うことが出来ました。さらに、矢野さんも魚捕りにトライすべく、名人に秘密のポイントに案内してもらいました!そのポイントとは、ワンドと呼ばれるもの。川の本流から水が流れ込み、入り江のようになっている場所です。湧き水も多く水も透き通っていて、魚たちの産卵や稚魚の成長には最適の場所。しかし、このワンドは自然のものではなく、14億円かけて再建されたものだったのです。
1970年代、多摩川はとても汚い川でした。生活排水や工業排水が流れ込み、表面は白い泡で覆われ、水中からは腐敗ガスが沸いて、魚なんてとても住めないような環境だったのです。しかし、現在、多摩川は生き返ろう、きれいになろうとしています。例えば支流には多摩川との合流地点に浄化施設があり、川を丸ごときれいに濾過して多摩川にそそいでいるのです!その他にも、東京の水道水の17%を供給している羽村の取水堰では、以前は全ての水を取り込んで、下流にはほとんど流していなかったのですが、最近は必ず毎秒2トンの水を流して、流れを保ち、川の浄化作用を促すようにしています。現在の多摩川の姿は、人間により破壊され、そして取り戻された自然の姿なのです。
さらに多摩川をさかのぼっていくと、生活用水専用のダム、小河内ダムと巨大な人造湖、奥多摩湖があります。その先には、水源があるだけ。水源は下流や中流とは異なり、広葉樹林の深い森に覆われ、水を蓄える緑のダムとして、立派に機能しています。実は、この森も明治初期に伐採が進み、禿げ山だったものを植林によって復活させたもの。まさに多摩川は水源から河口まで人の手により管理された川なのです。矢野さんは水源を尋ねて山登り。水源の水の味はどこか神聖な味がしたといいます。
| 多摩川は人の手で回復された自然! |
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