放送内容

第1458回
2019.01.13
かがくの里・田舎暮らし の科学[里のこぼれ話②] 場所・建物 自然・電波・鉱物・エネルギー

 5年にわたり続けてきた、科学者たちが豊かな里山をよみがえらせる長期実験企画、かがくの里。今回は、去年小屋づくりなど大きな成果をあげた里山再生プロジェクトを一挙大公開。
 そして、あの動物との闘いも振り返ります。さらに番組未公開、里山の達人と一緒に阿部さんが奮闘した、アユ漁の様子もお届けします!

里山再生編

 5年前、里の企画が始まって早々、地元の方々から、注意されたことが。それは、イノシシの被害。そこで、お呼びしたのが野生動物の専門家、山本先生。

 イノシシが大問題になっている原因は、イノシシの個体数が増えてきていること。昔から山の中にイノシシはいましたが、里山と呼ばれる薪や炭をとる炭焼き用の山がありました。そうして、山の手入れがされていると、動物は下りてくると人の匂いがするとともに、見通しも良い刈払われた山なので、臆病なイノシシは出てきません。ところが今は、石油や電気を使い、山の木を使わなくなったため、里のすぐ裏が密林になっています。それが奥山までつながっているため、イノシシが奥の山から里のすぐ近くまで人目に触れず下りてこられる。こういう里山の変化もイノシシが里山の近くに下りてきやすくなった原因だといいます。
 確かに、かがくの里の裏山は手入れもされず、荒れ放題でした。けれど、本当にこんなに近くにイノシシがいるんでしょうか?調査のため、地元猟友会の皆さんとかがくの里の裏山へ。すると里からわずか50mの地点で、イノシシのにおい。やはり裏山に出没しているのか?猟友会は増えすぎたイノシシを捕獲し駆除するのも仕事。そのやり方の一つ、罠猟を見せて頂きました。

 まず罠のそばの木ににおいの強いコールタールを塗ります。においの強いものを体にこすりつけるイノシシの習性を利用し、おびき寄せ、落ち葉でカムフラージュした罠に足を入れると捕獲できるという仕組みです。イノシシの姿を映像で捉えるため監視カメラを設置。果たしてイノシシは捕まるんでしょうか?
 夜行性のイノシシを見るため酒井さんが夜通しモニタリング。眠気が最高潮に達した3時すぎ、画面にのそのそ歩くイノシシの姿が!!

 この時、罠にはかかりませんでしたが確かに里の裏山にイノシシが出ることを確認できたんです。それから1か月。猟友会の方から、イノシシが罠にかかったという連絡をうけ、裏山へ。指さしたその先にいたのは、体重およそ70kgの巨大イノシシ。

 この大きさに襲われたら人間はひとたまりもありません。
 捕っても捕っても里へ降りてきて被害を出すイノシシ。根本的な原因である、荒れた里山をなんとかしなくては。そこで、去年本格的に始まったのが、裏山の木を間伐してキレイに整備にする里山再生プロジェクト!
 地元森林組合の皆さんの協力の下、茂っていた枝をキレイに打ち払い、チェーンソーで成長が望めない木を40本以上伐って、光が差し込むようにしたんです。
 ただ、里山再生で難しいのは、伐った木材の利用法。そこで、やってきたのが木材利用の専門家村田先生。去年、村田先生はかがくの里の間伐材の新たな活用法を模索してきました。
 そして老舗家具メーカーの知恵と技術を借り、間伐した広葉樹のヤマザクラなどで作ったのは、とても素敵なテーブルと椅子。
 さらにウッドターニングという技術を習いながら作ったのが、木製の食器。
 そして、職人さんにノック用のバットを作ってもらったら、商品と同じクオリティのものが完成。
 ギター職人さんに無理を言い、普通は外国産の木で造るアコースティックギターを間伐材だけで作ってもらったら、所さんも驚くほど良い音色に。
 荒れた里山から伐りだした木でも、性質を生かせば、価値を生み出せるということがわかったんです。
 さらに去年、阿部さんは地元の方々にたくさん協力頂き、間伐材で小屋造りにも挑戦。全て里山の木材でとっても素敵な小屋が完成しました!

 しかも実は、そのかがくの里の間伐材が今、すごいことに使われているんです。去年11月、村田先生に呼び出され向かったのは、先生が務める京都大学。村田先生によると、間伐材を宇宙研究に利用しようとしているといいます。どんな研究なのか?村田先生についていくと、そこにいたのは土井隆雄先生。実はこの方、日本人としては初めて宇宙空間で船外活動を行ったすごい人。その土井先生が今、取り組んでいるのが、なんと月への移住計画!!
 土井先生によると、人間はすでに月に行く技術は持っているが、恒久的に住む技術というのはまだ持っていないといいます。月への移住を実現するための課題は、持続的に資源を調達できるかどうか。月で人間が生活をするためには、当然建物が必要。ただ、建物の材料をロケットで運ぶのは大変すぎます。そこで、土井先生は月での資源確保のため、宇宙空間で木を育てられないかという壮大な研究を開始したんです。
 それと同時に、宇宙空間で木材はどのような変化をおこすのか?という研究も行っています。
 現在、宇宙空間に見立てた真空チャンバーに木材を入れ物性の変化を研究中。実は実験に使われているこの木材こそ、かがくの里山から伐りだされた間伐材だったんです!

 村田先生によると、伐採から乾燥過程も全部わかっているものは貴重なため、研究対象の材料としてはちょうど良かったそう。
 というわけで、かがくの里の間伐材は現在、宇宙研究の役にも立っているんです!

西野さん編

 5年前、かがくの里が始まってから地元の方々にはいろいろお世話になってきました。お正月には餅つきをやったり、節分には豆まき。ハロウィンパーティをやったりと、交流も深めてきました。
 中でも、去年の小屋造りからとってもお世話になっているのが、収穫祭でとてもおいしいイノシシ肉をふるまってくれた西野さん。

 普段は林業家として、木を伐っていますが、元々は板金工だったので機械に強く、整体も詳しいので、マッサージもでき、さらには、魚もあっという間に捌けちゃう、里山の達人なんです!
 去年8月。そんな西野さんに誘われたのが、里川のアユ捕り。アユは、1年で生涯を終える魚で、季節によって味わいが変わります。6月から7月頃は若鮎と呼ばれ、小ぶりであっさりとした味わい。7月から8月頃は成魚になり、産卵に向けて栄養を蓄え脂がのっています。9月から10月頃は落ち鮎と呼ばれ、産卵のため卵を持っているんです。今回は、脂がたっぷりのった成魚の時期!!
 向かったのは、近所にある里川と呼ばれるとってもキレイな川。アユはキレイな川に住む魚、ここなら大漁が期待できそう。挑戦するのは、網を投げてアユを捕らえる投網漁。阿部さん、もちろん初めてです。そこでさっそくお手本を見せてもらいました。
 網は投げた瞬間に丸く広がり、そのまま川に落下。網の端には重りがついていて川の底まで沈みます。網の先端を引いていき、ずるずる川底を引きずっていくと、網の中に入っていたアユが取れるというわけ。

 地元の方々はものの数分で、アユをゲット。阿部さんも投網漁初挑戦です。まず、網を肩にかけ、広げて投げる網を手繰り寄せます。これを遠心力で投げれば網は広がるはずですが、重りは20kg程度あり、網を操るのはかなり難しいんです。
 それでも、網を投げ続けていると、器用なのか、すぐに上達してきました。でもうまく投げられるのと、アユが網に入るかは別のようで、なかなかアユがかからず。
 その時、網も投げずに、川を潜る西野さんが!何してるんでしょうか?すると、なんと西野さん、手づかみでアユを捕っていたんです。

 これには阿部さん、茫然。阿部さんもなんとか一匹は捕りたいと投げ続けます。その横で、ガンガン捕っていく西野さん。
 と、そのとき、網がこの日一番うまく広がりました!半信半疑で網をのぞきにいくと、念願のアユゲット!

 結局この日、みんなで30匹程度捕れました。
 里に戻ってさっそく塩焼きに!30分ほど炭火でよく焼いたら、地元のアユをがぶり。おいしく!楽しく!かがくの里は地元の方の力も借りて今年もますます盛り上がっていきます!