放送内容

第1460回
2019.01.27
修行体験 の科学 人間科学

 今密かに人気となっている、「修行体験」。雑誌でも修行体験の特集が組まれていて、お寺がホームページで体験募集を行うなど、修行体験が簡単に体験できるようになっています。将来の不安やストレス解消など様々な目的で、修行を体験したいと気軽に訪れる人が多く、リピーターになり人も数多くいます。なぜ、辛いのに人々が惹きつけられてしまうのか?
 今回の目がテン!は、修行体験を科学します!

修行体験開始!いきなりの滝行!

 修行体験の人気の秘密を探るためにロケに行くはずだった酒井さん。しかし、ロケの予定日がなんと、酒井さんのドラマ撮影日と重なっていて、しかもドイツに滞在しての撮影だといいます。そこで、ロケの代役を他の人にお願いするために、酒井さんは自身の所属する劇団、ヨーロッパ企画の事務所に“とある人”を呼び出しました。カメラが来ることを知らされずに待っていたのは、酒井さんの先輩俳優、石田剛太さん。いきなりの目がテン!初リポーターの仕事を任されて驚いていましたが、ロケ日はこの撮影の翌日!「お寺での修行体験」とだけ聞かされて、まだ戸惑いが隠せない石田さんが訪れたのは、群馬県にある、山岳信仰を元に、670年以上続く『三重院(さんじゅういん)』。

 このお寺は普段から、一般の修行体験ツアーを受け入れているお寺です。今回石田さんには実際に行っている修行体験にのっとって、1泊2日の修行を行ってもらいます。出迎えてくれたのは、修行体験を指導してくれる副住職の村上圓信(えんしん)さん。するといきなり、「うちの修行は厳しいです!」と副住職。副住職が厳しいという修行体験、果たしてどんな修行が待ち受けているのでしょうか?
 修行体験を始める前に、まずは副住職が石田さんの悩みを聞きだします。この悩みを解決することが修行体験の目的なんだそう。現在39歳の石田剛太さん、劇団に入り20年間俳優一筋で活動してきました。しかし、未だ自分の演技に自身が持てず、将来に不安を感じていると言います。
 今回は石田さんが修行体験をすることで、この悩みが本当に解消されるかどうかを検証します。作務衣(さむえ)に着替え、まずは法名という弟子になった証としてもらえる修行中の名前を副住職から授与されます。副住職からもらった名前は、「剛三(ごうざん)」。石田さんの名前から剛(ごう)という文字と、過去・現在・未来を表す三世(さんぜ)から三(さん)をとり、過去や未来を悩まず現在を一生懸命生きろ、という意味を込められて付けられています。

 いよいよ修行スタート!今回は、山伏修行と呼ばれる3つの修行を行います。
 その1つ目は、「滝修行」。滝修行を最初にやる理由は、心の中に去来する雑念をまずキレイにして、新しい自分を作り上げていくためだそうです。早速、滝がある山へと移動します。移動中の石田さんに話を聞くと、いざ滝に打たれると弱音しかでてこないのではないか、と不安を口にします。そして到着したのは、雪が降り積もる川辺。歩くこと10分、そこに現れたのは落差30mもある砂川大滝。

 水温を測ってみると、キンキンに冷えたビールばりの6.7℃!石田さん覚悟を決めて、まずは体を水温に慣らすため、水の中へ。あまりの冷たさに大声で叫ぶ石田さん。それでも意を決し、歩を進めます。ここで、副住職から「アビラウンケン」と唱えるように教えられました。『アビラウンケン』とは、地・水・火・風・空(ち・すい・か・ふう・くう)を意味する言葉で、これを唱えることで、滝との同化を図るのです。

 いよいよ滝つぼへ。副住職のお手本を見て、石田さんが滝の下に入ります。ものすごく寒そうな中、「アビラウンケン!と繰り返し必死に唱え、人生初の滝修行を乗り切ります。滝行を終えた石田さん、修行前とはまるで違う顔つきになっています。

 すぐに服を着替えて体を温めると、冷たい滝に打たれた直後だというのにどこか表情は晴れやかです。お寺に戻って、石田さんに話を聞いてみると、滝行中は全く何も考えられなかったそうです。スタッフに服を着せられた時に初めて暖かさを実感するほど、寒さも忘れていたそうです。

徹夜で1万回のお経読み!

 滝行を終えると、次は夕食です。夕食は、漬物や焼きナス、納豆など、質素な精進料理です。しかし、修行の後に食べる食事は身に染みるほど美味しかったようです。
 食事を終えると再び修行の時間。時刻は午後7時50分、次に行うのは「マントラ修行」です。
 マントラ修行とは、不動真言を1万回繰り返し唱える修行。副住職から1万回と告げられた石田さん「一万回…」と思わず顔が引きつります。すると副住職が、「動揺を口に出して言うことは自分に自己暗示をかけることになる」「劇団というチームでやっていると、他の人にも影響を与えて暗示をかけてしまう」と石田さんの悩みでもある自信の無い後ろ向きな姿勢を即座に指摘します。こうした対話も修行の一つなのです。それでは、マントラ修行開始。住職曰く、これを一万回唱えるには、寝ずに唱え続けても朝までかかると言います。果たして石田さんは一万回達成出来るのでしょうか?

 修行に集中してもらうためお堂に石田さん1人を残し、スタッフは外へ。一心に真言を唱える石田さんですが、あまりの寒さに集中力が途切れます。お堂に暖房はなく、寒さにも耐えながら修行を続けなければなりません。開始から一時間でようやく600回。1万回唱えるには本当に朝までかかりそうです。開始から2時間で1300回。その後順調に真言を読み続け、開始から5時間が経過したところで3000回達成です。ここからは、強烈な睡魔との戦いでもあります。立ったまま真言を唱え、眠気と必死に戦いますが、深夜3時に3200回を数えたところで、ついにギブアップ!そのまま寝てしまいました。一万回には届きませんでしたが、一日目の修行体験終了です。

 石田さんが体験したマントラ修行に科学的な効果はあるのか?心理学の専門家、相模女子大学の石川勇一教授に話を伺いました。
 マントラ修行で同じずっと唱え続けると、心理学では変性意識状態と呼ばれる、普通の意識状態ではない状態になります。マントラを繰り返し唱えたり、そういった特殊な状況に置かれると、普段湧き上がって来なかった、自分の中にある本音や願望といったものが次から次へと湧き上がってくるのだそう。そうすると、心の奥底から掃除が始まって行き、深層意識が掃除されてスッキリするのだとか。
 マントラ修行で真言を繰り返すことが心の掃除につながっていたんです。

 ちなみに、3200回でギブアップしてしまった石田さんですが、繰り返し唱えていることが重要なため、1万回に届かずとも十分に心の掃除ができているとのことでした。
 さらに、始めに行った滝行にもある心理効果がありました。滝には冷たさや痛さといった、膨大な刺激があり、そのようなすごい感覚が一気に押し寄せることによって、思考が止まってしまいます。思考が止まると、今この場所の感覚だけに生きられるので、幸せなスッキリした感覚が得られるのだといいます。
 極寒の中、滝行を行うことで、思考が止まり、頭の中がスッキリして幸福感を味う事が出来ていたんです。

断崖絶壁の峰入り修行!

 修行開始の朝6時にまだ寝ている石田さんを副住職が起こして、修行体験の2日目は始まりました。
 最初に行うのは、朝のお勤め「護摩修行」。護摩修行とは、火を起こして、不動明王に自分の願いを供物として捧げ、祈る修行のこと。無事に護摩修行を終えると、2日目の朝食も精進料理を頂きます。すると副住職が、昨晩のマントラ修行のことについて石田さんを諭します。石田さんは、疲労と眠気と寒さに負けたことと、「寝ておかないと、今日倒れるなと思った」ことを話します。副住職は、そこが石田さんの弱さだと指摘。「人間は苦しくなるとね、逃げ出そうと思って一生懸命考えるんだよ。そこに良い言い訳があったような気がするだろ?なんか一見筋が通っている見えなくはないんだよな、今やるべきことをやらない。やらないですぐ言い訳を探すんだよ。どっかおかしくねえかそれ?」。石田さんから思わず出てしまった言い訳、その弱い心を静かに諭します。まだまだ後ろ向きな姿勢の石田さん。この修業で生まれ変われるのか?
 そして、最後の修行「峰入り修行」へ。峰入り修行とは、山の中に安置されている菩薩(ぼさつ)にお参りに行く修行のこと。

 とても道とは呼べない道なき道を進んで行きます。修行のため、あえて険しい道を進むのです。さらに副住職は、急斜面をロープ一本で降り始めます。石田さんもロープから手を離さないように慎重に降りていきます。急斜面を降りきると…そこには高さ20mにも及ぶ絶壁!そこには修験道の開祖と言われる神変大菩薩(じんべんだいぼさつ)の石像が安置されていました。

 お参りをするため、ヘルメットを着けて最後の崖登り。修行を投げだし、眠ってしまった1日目とは変わり、気合いがみなぎる石田さん。必死に崖を登ります。そしてついに、神変大菩薩の石像を拝むことが出来ました。

 お参りのためにお経をあげて、無事最後の修行である峰入り修行終了。お寺に戻り如来様に修行完了を報告すると、これにて1泊2日の山伏体験修行、全行程終了です。最初は仕事の悩みを告白することから始まった修行体験。たったの2日でしたが、様々な過酷な修行を乗り越え、何とかゴールできました。修行を終えた石田さんの心の変化を聞いてみると、「本当にやって良かった」「自分のダメなところを個性だと思って容認してきたけど、変えなくてはいけないと思った」と自分を変えるためのヒントを修業体験を通して気づいたようです。何はともあれ、厳しい修行体験を無事最後までやり抜いた石田さん、本当にお疲れ様でした!