放送内容

第1499回
2019.11.03
焼きそば の科学 食べ物

 麺類の年間売上ランキングによると、上位はいずれも馴染みのある商品がランクインし、2位は意外にも夏の定番「そうめん」。そして、栄えある第1位は、3食入り焼きそば!
 今や焼きそばは、日本人の食卓には欠かせないソウルフード。しかし、そこにはいくつかの謎が。パッケージをよ~く見てみると「蒸し」の表記が。焼きそばの麺は、なぜ蒸している!?さらに、家庭で作る時の定番「粉末ソース」。実は“粉末ならでは”のメリットが!そして、無性に食べたくなるカップ焼きそば。そもそも、焼いてないのになぜ焼きそば!?
 今回の目がテンは、奥深き定番の味!焼きそばの科学です。

焼きそばの謎① なぜ蒸し麺なのか?

 東京・浅草。ここでソース焼きそばが生まれたのは、今から100年近く前のこと。大正時代。浅草では屋台文化が栄えていました。鉄板で焼いた粉ものに、日本人好みにアレンジされたソースをかけて食べるスタイルが流行していました。ちょうどその頃、庶民の間に広まったのが中国生まれの「中華麺」。ある店主が、試しに中華麺を焼いてソースをかけてみたところ、これが相性バツグン!こうしてソース焼きそばが誕生しました。
 浅草には、現在も当時と同じレシピで焼きそばを作り続けるお店が。具材はシンプルにキャベツのみ。これが、浅草で生まれた「ソース焼きそば」です。

 実は、この麺には昔から変わらぬ“ある特徴”が。なんと、蒸した中華麺を使っていたんです。スーパーなどで売られている焼きそばも、パッケージをよく見ると、いずれも「蒸し」の表記が!でも、なぜ焼きそばの麺はわざわざ蒸すのでしょうか?

 そこで、製粉会社で長年、小麦粉について研究してきた麺のスペシャリスト、工学院大学教授の山田先生に聞いてみました。
山田先生によると、生の中華麺は、茹でるとラーメンに。蒸すと焼きそばの麺になるそう。蒸すことによって 焼きそばらしさが出てくるということですが一体どういうこと!?

 そこで、こんな実験。同じ生の中華麺から、それぞれ「茹で麺」と「蒸し麺」を作ります。この2つで焼きそばを作ったとき、味や食感にどんな違いが表れるのでしょうか?さっそく調理スタート。具材の量や、炒める時間も揃えます。

 これを食べ比べてもらうのは、官能評価と呼ばれる測定方法を学んだ男女6人。今回行う官能評価は、人間の五感を使い、個人の好みを排除し、食品の味や香り、食感などを評価するもの。実験の内容は伏せた状態で、各項目を5段階で採点してもらいます。
 評価の平均を見てみると、麺内部のモチモチ感は、蒸し麺の3に対し、茹で麺は3.33。およそ0.3ポイントの差でした。一方、麺の表面の硬さは蒸し麺の3に対し、茹で麺は2と、1ポイントの差が出たんです。

 では、なぜ蒸すことで食感に違いが表れたのでしょうか?
 そこで、麺の断面を顕微鏡で見てみます。
 蒸し麺の断面。外側の茶色はソース。中心の黒っぽい部分は水分が少ないところです。茹で麺と比較してみると、蒸し麺の方が、黒っぽい部分が多く、水分が少ない事がわかります。

 茹でると表面から水が入ってきますが、蒸す場合は水蒸気で入ってきます。水蒸気の量と水の量は全然違うので、トータルの水の量は蒸し麺の方が少ないんです。
 この水分量の差が、蒸し麺の“歯応え”に関係しているそうです。蒸し麺は元々の水分が少ないため、炒めた時、麺表面の水分が早く蒸発。外側が焦げやすくなるんです。
 他の食材にも負けない“麺の歯ごたえ”こそが焼きそばに蒸し麺が使われる理由だったんです!

焼きそばの謎② 粉末ソース

 スーパーなどで売っている焼きそばの多くは、粉末ソースが添えられています。そこで2つ目の謎、焼きそばソースはなぜ粉なのか?

 訪れたのは、焼きそばを製造・販売する食品メーカーの研究所。こちらのメーカーでは、麺類の中で最も売れている商品「3食入り焼きそば」を製造しています。1975年の発売以来、40年以上、ほとんど味を変えていないロングセラーです。
 迎えてくれたのは、チルド食品などの研究・開発を担当する市川さん。さっそく、粉末ソースにしている理由を聞いてみると、理由は2つあるといいます。
 粉末ソースを使う1つ目の理由は、「吸水作用」。屋台の焼きそばは、強い火力で麺を炒めて水分を飛ばします。しかし、家庭では火力が弱いため水分が飛ばず、どうしてもべちゃっとなりがち。粉末ソースをつかうことで水分をうまく吸ってくれることでパラっとおいしく仕上がるんです。
 続いて、市川さんが見せてくれたのは、粉末ソースの原料。あっさりとした味の液体ソースを粉末にしたもの。さらに粉末のしょうゆ。そしてポークエキスのパウダー。他にも、砂糖や塩などの調味料。数種類のスパイス。そして、10種類のスパイスとその他の材料が入ったもの。全て粉末状なのは、この20種のスパイスを生かすため。香りというのは、食欲を刺激する重要なポイント。スパイスの中には、水に触れると味や風味が変化してしまうものがあるんです。
 粉末ソースを使う2つ目の理由は、“スパイスの風味を保持する”ため。スパイスの香りが、使う直前まで保たれるようにソースを粉末にしているんです。
 焼きそばの粉末ソースは、パラッとした麺の食感と、食欲をかき立てるスパイシー感を生み出していたんです。

焼きそばの謎③ 焼かない焼きそばの謎

 手軽に食べられるインスタント麺の定番「カップ焼きそば」。でも、「焼きそば」と言っているわりに“焼く”工程がどこにもありません。それでも、焼きそばの味を感じられるのは一体なぜ?

 さっそくカップ焼きそばの工場へ。案内してくれるのはカップ焼きそばの製造を担当する山村さん。
 まずは麺を作ります。材料は、小麦粉・水・塩・かん水などを混ぜ合わせたもの。それらを練り固め、生地にしていきます。いくつものローラーで徐々に薄く伸ばしていき何度もローラーにかけることで麺に歯ごたえが生まれます。そして、薄くした生地を、細くカット。
 こうして、縮れ麺ができたら蒸し器を使って、麺を蒸します。カップ焼きそばも蒸し麺なんです。
 蒸し上がったら続いての工程。繋がっていた麺を1食分の長さにカットします。そして、麺を高温の油で揚げます。こうすることで、瞬間的に水分が飛び、お湯で戻すだけで食べられるインスタント麺になり、油で揚げることで、香ばしさが出るんです。
 しかし、“焼いた感”が得られる最大の理由は他にありました。
 その後、揚げた麺は容器に入れられていきます。そして、ソースや具なども入ります。じつは麺ではなくこの“ソース”に“焼いた感”最大の秘密がありました!
液体ソースの秘密は、焼きそばの香りがするという謎の液体。

 こちらは、焼きそばを焼いたような香りのする、ロースト感のあるオイル。味は「香り」に左右されます。そのため、焼くことのできないカップ焼きそばは香りまでこだわって作っているんです。
 焼いていないのに焼いた感が出る秘密。それは、液体ソースに“ロースト感のあるオイル”が入っていたからなんです!