第1532回 2020.06.28 |
スマート酪農 の科学 | 地上の動物 物・その他 |
酪農。それは、生き物を相手にしているため、人が休みなく、体を酷使しながら働いているイメージのある仕事。その影響からなのか、酪農家の数は、この20年間で減少の一途をたどり、慢性的な人手不足に…。しかし!その現状を打開すべく、酪農家たちは、ゆとりある働き方改革を進めていたのです!
今回の目がテンは、無理なく持続可能な酪農!「スマート酪農」を科学します!
従来の酪農を体験
3月中旬、早朝5時。まだ暗い中、牧場に呼び出されたのは、芸歴10年目のピン芸人、コネオ・インターナショナルさん。まずは、従来の方法で酪農を経営されている、加茂牧場の加茂さんにお世話になることに。加茂牧場は、牛を鎖につないで飼育する、昔ながらの方法で酪農を行っており、男女含め6人で約90頭の乳牛を管理、職業体験を通じて、一般の人に、昔ながらの酪農を広める活動も行っているのです。
しかし、なぜ従来の大変な方法で酪農を続けているのでしょうか?
従来の酪農の仕事!その① 搾乳!
はじめから搾乳機を取り付けるのではなく、牛乳に雑菌が入らないように、まずは牛の乳頭をきれいに拭き取る作業を行います。
次は「前搾り」。前搾りとは、牛に「乳を今から出すよ」と合図を送るためにする乳搾り。乳頭を刺激することによって、牛の脳下垂体からオキシトシンと呼ばれるホルモンが血液中に分泌。前搾りには、牛の乳腺から乳の排出を促す効果があるのです。
搾乳機を牛の乳頭に取り付けるのはスピード勝負!前搾りを行ってから5分〜10分でオキシトシンが出なくなるため、その間に搾乳しなければ乳が出なくなってしまうのです。なんとか搾乳機を取り付け、初搾乳。
搾乳が終われば次は、乳頭に雑菌が入らないように消毒液をつける「ディッピング」と呼ばれる作業を行えば、ようやく一頭分の工程が終了です。
朝6時!ここからいよいよ本格的な作業が始まります。総数約90頭の搾乳を、4人のスタッフが連携をとって作業を進めます。一人当たり20頭以上の搾乳を、およそ2時間で終えなければなりません。
従来の酪農の仕事その② 子牛のミルクやり!
子牛がミルクを飲みやすいように、約3kgの哺乳瓶を顔の高さまで上げなければなりません。
10頭の子牛にミルクを効率的にあげるため、両手で哺乳瓶を持って与えます。
今度の作業は、エサとなる配合飼料をバケツいっぱいに入れて、一つ重さ10kgにもなるバケツを両手で運び、牛に与えていきます。全ての牛に配り終わったら、作業開始から3時間の朝9時、ようやく小休憩!
30分の小休憩を挟んだら、もうひと踏ん張り!牧草を牛に与えて、牛舎の掃除を行うこと、およそ4時間!午後1時。ようやく前半の仕事は終了。お昼を食べたら、長めの休憩。
そして、午後5時。後半の仕事が始まります。まずは搾乳。搾乳は、12時間間隔で行うのが一般的。この間隔を崩してしまうと、乳が張り、病気になるリスクが増えるだけでなく、全体の搾乳量が減ってしまいます。
汗だくになりながら搾乳が終わると、子牛にミルクを与えて、最後に牛のエサを敷き詰めたら、時刻は午後9時20分。この日のお仕事終了!
従来の酪農は、体力的にきつい部分はありますが、個性豊かな牛一頭一頭と向き合って仕事ができるため、牛好きの人にとっては充実した仕事でもあるのです。
スマート酪農とは?
早朝4時。やってきたのは西多摩にある清水牧場。120頭の乳牛から、1日で2トンの生乳を生産している、東京最大の牧場。15年前に、従来の酪農からスマート酪農に切り替えたといいます。しかし「スマート酪農」とは、一体何なのでしょうか?
前回の牛舎の牛は鎖で繋がれていましたが、ここの牛たちは「フリーストール」と呼ばれる飼育方法で、自由な場所で寝たり、歩き回ったりできます。
この飼い方が、スマート酪農の鍵!
そして、コネオさんお得意の搾乳を行いに向かうと、シャッターで閉じ込められた牛が!
実はこれ、全自動型のロボット搾乳機!乳が張った牛は、自分から搾乳機の中に入っていき、定位置につくとブラシが出てきて乳頭を洗浄。同時に乳頭を刺激して、牛の脳にオキシトシンを出させます。これは前回行った、タオル拭きと前搾りの作業と同じ工程!
続いては、赤外線で牛の乳頭の位置を探しだし、搾乳機を取り付けていきます。搾乳が終わると乳頭を消毒、ディッピングの作業も自動。生乳は、そのまま保冷庫に保管されるという、まさに搾乳が全て自動化されていたのです!
ここの牛たちは、自分から搾乳ロボットに行くように訓練されており、搾っている間は、ご褒美のエサももらえるので、率先して自分で機械に入っていくのです。「フリーストール」という形で飼育しているのは、牛が搾乳ロボットに自由に入れるようにするためだったのです。
なので朝一番に行う仕事は、搾乳機の中に、どの牛が何時間前に入ったのかがパソコンで管理されているため、12時間以上搾乳ロボットに入らなかった牛に、搾乳ロボットに向かわせること。
さらに、この搾乳ロボットにはすごい機能が!首輪に牛の識別センサーがついており、搾乳ロボットに入ってから8時間以上たった牛だけが、新たに搾乳出来る設定になっているため、まだ搾乳してから8時間たっていない牛は、搾乳ロボットが判断して、搾乳せずにゲートを開ける仕組みになっているのです。
従来の酪農をされている加茂牧場では、普段6人で約90頭の牛を管理していましたが、清水牧場では、搾乳ロボットのおかげで、約120頭の牛を普段3人で管理。午前中は、従来の酪農と同じく子牛のミルクやりや、重機に乗り、牛に干し草を与えたり、牛舎の掃除をするだけ!そして、牛の寝床を作るために、おがくずを敷き詰めたら午前中の仕事が終わり。朝7時30分。スマート酪農のおかげで、家族揃って朝ごはんも食べられます。
さらに、搾乳の時間が大幅に省略されたことがキッカケで、清水さんの奥さんは、牧場でとれた牛乳をたっぷり使ったアイスや、地域で作られるいちごや紅茶を使ったジェラートを販売するお店を経営しています。搾乳ロボットのおかげで、1からお店を作るなど、経営の幅が広がっていたのです。
午後2時20分。後半の作業開始!子牛にミルクを与えて、牛の寝床を造ったら午後4時45分。これで作業は終了です。
搾乳ロボットのおかげで、午後5時には帰宅。スマート酪農は、牛の管理を効率化させることで、ゆとりある働き方を実現する酪農だったのです。
牛の発情期がわかる「ハードナビゲーター」
酪農が盛んな北海道ではスマート酪農が進んでいて、「ハードナビゲーター」という、牛の発情期がわかる機械を導入している牧場もあります。
牛は、赤ちゃんを産まないと乳量が減ってきてしまうので、獣医さんが、牛の直腸に手を入れて子宮の状態を調べ、牛の発情期を判断する直腸検査を行います。発情していると判断されれば、その後、人工受精を行います。
ハードナビゲーターは、搾乳してきた乳を入れるだけで発情期がわかるというものなのです。これを使えば、個々の牛の発情期のデータを簡単に管理することが出来るので、より効率的に酪農を行うことができる様になるのです。