放送内容

第1536回
2020.07.26
都丸紗也華の自由研究・プラナリア の科学 水中の動物

 今回の目がテン!は、新企画!生き物や科学に、あまり興味のない都丸紗也華さんに、楽しく自由に学ぶことで科学に興味を持ってもらう「都丸紗也華の自由研究」。第一回目のテーマは…つぶらな瞳が愛くるしい生き物、プラナリア。切っても死なない!?死なないどころか、切った個数に増える!?一体この生き物は何なのか?
 今回は、不死身の生物、プラナリアを科学します!

プラナリアを探せ!

 都丸さんが向かったのは、愛知県岡崎市。迎えてくれたのは、プラナリアについて長年研究している、基礎生物学研究所の阿形所長。
 プラナリアは、他の生物にはないとんでもない能力を持っているということで、捕まえて実験をします。捜索するのは、阿形先生がプラナリアを見つけたことがあるという、くらがり渓谷。

自由研究のミッションその➀ プラナリアを探せ!
 プラナリアの生息場所は、水が綺麗なところ、明るいところが嫌いなため日陰、砂があり小さめの岩や石がある場所。他にも、プラナリアは、小川や、農薬を使っていない田んぼの用水路のそばなど、身近な場所にいるのです。さらに、日陰で水の温度が12度から18度の場所を好むと言います。
 探すのに必要なものは、プラスチック容器のみ。水につかっている石を容器の中で洗い、動いているものがいないか確認します。大きさは1cmから2cmくらい。
 都丸さん、まだ見ぬプラナリアをヒントを頼りに探します。恐る恐る石を洗い観察を続けると、動くものを発見。なんと、都丸さん!先生も驚く特大のプラナリアを発見!

 先生が見つけたものも合わせて、10匹のプラナリアを採取することができました。

プラナリアを切断!

 プラナリアを持って向かったのは、阿形先生の研究拠点、基礎生物学研究所。生物のもつ不思議な現象、共生・擬態・再生といったものを分子や細胞レベルで解明することを目指しています。
 まずは、プラナリアを顕微鏡で拡大して見ていきます。拡大して観察するとよくわかるのが、目はより目、顔は三角。

 このかわいい見た目が今人気で、プラナリアのイラストが描かれたグッズが発売されるほど!
 ここから、最も重要な実験。例えば、プラナリアを3等分にしたら、最終的に3つのプラナリアが誕生すると言うのです。自然界で生きているプラナリアも、エサが豊富にあり、大きくなると、自らちぎれて数を増やすと言います。今回は、それを人工的に再現。

自由研究のミッションその② プラナリア切断実験!
 用意するものは、新品のカッター、プラナリアを採取した水を凍らせたもの、ろ紙、もしくはキッチンペーパー。
 プラナリアは、冷やすと麻酔をかけられたように動けなくなるのです。氷の上に、ろ紙を何枚か敷いて、その上にプラナリアをのせます。プラナリアが動かなくなったところで、3当分にカットします。カットしたプラナリアを水に戻し、顕微鏡で見てみると、みるみる間に傷口が閉じていきます。ここから脳と目玉が再生するのでしょうか?

プラナリアを育てる!

ミッションその③ プラナリアを育てる!
 3つに切ったプラナリアを、都丸さんの自宅に持ち帰り、再生するのか観察します。
 プラナリア生活1日目。傷口はふさがり、3つとも元気に泳いでいます。

プラナリアを自宅で飼う場合は、プラスチック容器に見つけてきた場所の水を入れて育てます。水温は、見つけた場所の±5度をキープ。夏に飼う場合は、発泡スチロールの箱に保冷剤を入れ、その中にプラスチック容器を入れましょう。
 再生するまで餌は食べません。その間は水も汚れないので、かえなくてOK。
 餌は1週間以上たってから。鶏のレバーが良いそうです。餌をあげたら水をかえましょう。
 プラナリア生活3日目。切り口に白いものがみえます。これは、「再生芽」と呼ばれるもの。新しい体が作られている証拠です。

 観察開始から4日目。左右を切り取られた真ん中の断片、黒いポチっとした点が見えます。目が再生した証拠です!

 切ってから12日目。頭の断片には、しっぽと胴体が再生しました。そして、左右切られた真ん中部分は全てが再生しているように見えます。さらに、しっぽだけだった断片には、体と頭が生えました!

 切断されたプラナリアが、まず再生するのは体の先端。尻尾なら、頭の先がまずでき、その間の胴体などの細胞がないということが再生のスイッチとなり、その後、体全体が再生するのです。

 また、阿形先生は過去に、縦にカットすることも試していて、そのときも見事再生に成功しているんです。

人間の医療に応用

 なぜ、プラナリアは体を切断されても再生できたのでしょうか。
 阿形先生によると、プラナリアが再生できる秘密には、2つのポイントがあるそう。一つは細胞そのもの。増殖して、いろんな細胞になれる幹細胞を、プラナリアは約20%持っているんです。
 分裂し、再生に関わることができる細胞には様々な種類があります。人間が持つ、骨や筋肉など1種類の細胞にしかなれない単分化能幹細胞。転んで傷ついても、かさぶたができて皮膚が再生する。骨折をしても、骨が元どおりに再生するなど、これらは主に、単分化能幹細胞が分裂し、新しい細胞を作ることで再生できるのです。
 そして、プラナリアが持つ、どんな細胞にでもなれる多能性幹細胞。いわゆる万能細胞です。プラナリアには全身の約20%がこの万能細胞なんです。万能細胞は、成長した人間の体にはありません。プラナリアは体の一部を失ったとき、万能細胞が分裂し、失った部分を補い、再生します。

 近年、再生医療の研究現場では万能細胞が作られ、プラナリアのように人間も失われた臓器などを再生できるのではと期待が持たれていました。2012年に、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞した、iPS細胞もその一つです。しかし万能細胞には、ある課題がありました。
 単純に万能細胞を移植しても、目的の臓器は再生できないのです。万能細胞を思う通りのものに再生させることが長年の課題でした。そこで、先生が目をつけたのがプラナリア。
 研究の結果、遺伝子が、脳に関する細胞を作れ、筋肉に関する細胞を作れ、と細胞一つひとつに指令を出しているというのです。先生は、脳の細胞の再生に関与している遺伝子を特定するため、約10,000種の遺伝子を調べました。そして、そのうちの1つの遺伝子が、脳を作るのに不可欠な遺伝子だと予想を立てたのです。つまり、この遺伝子の働きを止め、脳ができなければ、先生の説が実証されるということ。
 しかし…遺伝子の動きを止めると逆に、全身に脳ができてしまったんです。そのプラナリアの写真がこちら。

 あちこちに脳ができています。脳の再生に関わる遺伝子の働きを止めると、体全体に脳ができてしまった。つまりこの遺伝子は、単純に、脳を作れ、という遺伝子ではなく、「脳を頭のここに作れ!」と、場所を含め指令を出す遺伝子だったのです。
 遺伝子は、万能細胞に、どんな細胞になるべきかを指示するだけでなく、体のどの部分に作るのかも指令しているということがわかった、大きな発見でした。
 阿形先生は、この遺伝子に「脳だらけ」という名前をつけて、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』に発表。
 この研究は、再生医療研究を大きく前進させる可能性があると、科学界に衝撃をもたらしました。

 プラナリアの遺伝子解析が進むことで、万能細胞を再生医療に有効活用できる未来が期待されているのです。