第1671回 2023.04.16 |
鉄フライパン の科学 | 物・その他 |
近年、家で本格的な料理がしたいというニーズからさまざまな調理器具を手にいれる人が増えているんです。そんな中、今人気なのが経年劣化で性能が落ちることがほぼなく、料理が美味しく仕上がる!と人気の鉄製のフライパン。そこで、鉄のフライパンの魅力を徹底解明!
今回は、一生ものの相棒、鉄のフライパンを科学します!
鉄フライパンの魅力
鉄のフライパンの特徴を知るため、調理科学の専門家、露久保先生に協力してもらいます。露久保先生が思う鉄のフライパンの魅力、それはお料理が美味しくできるということ。
入門編ということで、今回は格安1815円の鉄のフライパンを使います。
新品のフライパンは、初めて使う前に手入れをする必要があります。メーカーの推奨するやり方で行いましょう。今回使うフライパンの場合は、5分ほど空焼きをして錆止め用の表面の塗料を焼きます。そして、錆止めと料理のくっつきを防ぐために、油を全体に塗り込みます。これで準備完了です。
それでは、くっつきにくい鉄フライパンの使い方。今回は目玉焼きを作っていきます。まずは中火で、しっかりとフライパンを温めます。すると1分後、白い煙が。その後、弱火にし、油をひきます。弱火にし、油をひくことで、卵と鉄が直接触れるのを防ぎ、くっつきにくくなるんです。油を馴染ませたら、高温で加熱することで白身の水分が蒸発しカリカリに仕上がります。そのまま動かさず弱火で3分。フライパンにはくっつかず、焼き目がカリカリの目玉焼きが完成しました。
くっついてしまうことも多い目玉焼き。なぜくっつかずに焼けたのでしょうか。
タンパク質は80℃付近で食材に含まれる水分に、水溶性タンパク質が溶け出し接着剤のようにフライパンにくっつきます。
予熱によりフライパン全体を高温にすることで食材の水分を瞬時に蒸発させ、タンパク質を素早く加熱することでくっつきにくくなったんです。
予熱の重要性を確認するため、薄焼き卵を作って比較。予熱ありの方は、スルッとフライ返しが入りくっつかなかったのに対して、予熱なしのほうはフライパンへの接着が強く、剥がすのが大変でした。
さらに、鉄のフライパンの特性がより理解できるというのがトースト。まずは先ほどと同じく、フライパンを予熱。全体を均一に温めます。煙が出てきたら弱火にします。食パンは、卵などと比べると水分が少なくすでに加熱しているのでくっつきにくい食材。油をひかず加熱します。2分後ひっくり返し、片面をさらに1分。綺麗に全体に焼き目がつきました。
鉄のフライパンとアルミニウムにフライパンを比較します。熱伝導率を比較すると、アルミニウムは熱を伝えやすく早く温度があがります。一方、鉄はアルミニウムより熱が伝わりにくいという違いがあります。
さらに、アルミニウムを使ったフライパンは薄くて軽く、鉄のフライパンは厚く重いんです。
厚くて重い鉄のフライパンの方が、より多く熱をためることができ、一度温まったら冷めにくいということ。そのため、パンの温度でフライパンの熱が冷めてしまうことがなく、ムラがなく均一に焼き色を付けることができるんです。
鉄と主にアルミニウムを使ったフッ素樹脂加工のフライパン、サーモグラフィを使って、温度変化をみます。予熱をして全体が高温になっている鉄のフライパンに対しフッ素樹脂加工のフライパンはコーティングが劣化するため、高温の予熱はNG。火をつけてすぐに食パンを入れます。
まずはアルミニウムを主に使ったフライパン。炎に近い位置から食パンの温度が上がっていることが分かります。鉄フライパンと違い熱しやすく、冷めやすい。炎のない端の部分は、食材の冷たさで熱が逃げてしまうため、温度の偏りができるんです。焼き始めてから7分後。中心部のみ、焼き目がつき周りは白いままでした。
一方、鉄のフライパンは、端からじわじわと全体に均一に加熱されているのがわかります。鉄のフライパンは、熱の伝わり方と熱を貯める力のバランスがよく食材を均一に加熱することができるんです。
さらに、均一に加熱するのが得意、ということでおすすめ料理はステーキ。全体に綺麗な焼き目がつき中までじっくり加熱できるんです。そして、野菜は肉の周りに配置したら動かさなくてOK。鉄のフライパンなら火から一番遠いにんじんも動かさずに置くだけで綺麗な焼き目がつきました。また、熱が全体に回っているので鍋は振らなくてOK。焼く時は動かさず、炒める時は箸などで食材を動かせばそれだけで十分加熱できるんです。そして、冷めにくいという鉄の性質を生かし料理ができたら、そのまま食卓に運べば温かい状態が長続きするんです。
さらに、お手入れも意外と簡単なんです。使い終わったら、まだ温かいうちにタワシで水洗いをして食材のクズや焦げを取り除きます。その後、空焼きをし水分を飛ばします。最後に錆止めとして、全体に薄く油を塗れば完了。錆びずに、次も快適に使うことができるんです。
選び方のポイント&育てるフライパン
鉄のフライパンを多く取り扱うお店を訪ねました。鉄のフライパンと言っても、いろんな種類があります。一般的なのは、丸くカットした鉄板を回転させへらを押しあててフライパンの形にしていくヘラ絞り。
調理面のみを瞬時に作っていきます。
そして、板状の鉄を型にはめて成形するプレス。
この二つは大量生産ができるのでお値段も手頃なんです。
一方、鉄を真っ赤に溶かして型に流し込んで作る鋳鉄。鋳物製の鉄のフライパンはスキレットと呼ばれ、古くから愛されてきました。
もう一つ、鉄を熱し、叩いて伸ばして整形する、鍛造。
一つ一つ違った手作りの味わいが。値段も作り方も違う様々な鉄のフライパン。初めての人におすすめなのは、厚さ2mmほどのフライパン、初心者でも扱いやすく料理も美味しく仕上がります。
そして、鉄フライパンは、使うほどに、錆びにくく、くっつきにくくなります。油を研究する遠藤先生に伺うと、加熱することで油が酸化重合という反応を起こして鉄鍋にしっかりくっつくといいます。
薄く塗った油を予熱すると、油の分子が空気中の酸素によって酸化されて化学的に結合し固まるように変化します。一度重合した油は、フライパンにピッタリとくっつき、ちょっとのことでは剥がれなくなります。そして、予熱のたびに、重合が進み、使い続けることで、フライパン全体をコーティングして食材のくっつきやサビから守ってくれるのです。
油の重合が進めば、使った後油を塗らなくてもさびないのでお手入れも楽になるんです!
手作りフライパン
一生ものの鉄のフライパンを作るため、鍛冶職人の金子さんにフライパンの作り方を教えてもらいます。今回は鉄板を叩いて形を整形する鍛造という方法でフライパンを作ります。
まず、鉄板をフライパンの形にカット。持ち手も一体型なので壊れにくく、より長持ちすると言います。
鉄が変形するくらいの柔らかさにするため、まずはバーナーで熱し、鉄が冷める前に手早く打ち込みます。熱しては打ち込みを繰り返し一周ぐるり。今度は、波立っている部分を叩き、伸ばしていきます。波が平になった部分は、木槌を使ってさらに細かい波を叩き全体を平にしていきます。丁寧な打ち込みによってできる、表面の凹凸が、油の馴染みをよくし、食材をくっつきにくくしてくれるんです。ひたすら叩くこと合計5時間。世界に一つだけのフライパンが完成しました!
スタジオで所さんにお披露目したところ、「いいじゃん!」とのお言葉をいただきました!