第1677回 2023.05.28 |
かがくの里 の科学 | 場所・建物 地上の動物 |
今や生き物たくさんの里山、それが、かがくの里!去年の8月。里の裏山に仕掛けた巣箱でムササビが出産しましたが…なんと、今年も!予想を超えて、生き物がぞくぞく増えるかがくの里!
今回は裏山の生き物に新展開スペシャルです!
森の生態系にかかせない樹洞とは?
里山再生の一環としてはじめた一つが、里にフクロウを呼ぶプロジェクトでした。里の裏山の間伐はある程度進んでいて、フクロウが飛びやすい環境にはなっていましたが、一つ、大きな問題が。フクロウは、樹洞と呼ばれる「木にできた空洞」で卵を産み、ヒナを育てるのですが、里の裏山には樹洞がなかったんです。樹洞を巣として利用している野生生物はフクロウ以外にもたくさんいて、森の生態系を豊かに保つうえで欠かせないもの。
しかし、生き物が住める大きさの樹洞ができるまで、木が太く育つには長い年月がかかります。若い木が多い里の裏山には、フクロウが住めるほどの大きな樹洞はなく、そのままでは巣作りする可能性はゼロ。
そこで里の裏山に、樹洞の代わりとしてフクロウ用の大きめの巣箱と、24時間撮影できる定点カメラを設置。
するとその翌年には、2羽のフクロウが巣箱を訪れる姿の撮影に成功しました。
その後も頻繁に姿をみせてくれていましたが、ある夜、フクロウの巣箱にムササビが!
ムササビも樹洞がある山林に暮らす夜行性の生き物。フクロウの巣箱を寝床にしようとやってきたと考えられます。
しかし、巣箱をムササビが使うようになると、フクロウが寄り付かなくなってしまう可能性が。そこでサワラの木に、杉の木の皮を貼り付けたムササビ専用の巣箱を設置しました。するとムササビがその巣箱に頻繁に入り長時間過ごすようになったんです。
そして去年8月、ついに決定的瞬間が!巣箱に入ったムササビが前足をかけ、いきむようなポーズで動かなくなり、3分後、再び体を動かしたその時、赤ちゃんが出てきました!
それから1時間後には2匹目も!ムササビ出産の撮影に初成功したんです。そこから数日、子育ての様子も観察できましたが、ムササビは天敵対策で巣穴を移動する習性があり、この巣箱を後にしました。
そしてムササビが去ってひと月後、去年9月5日。今度は緑色の背中が特徴の、キツツキの仲間、アオゲラが。これまで別の定点カメラに木をつつく姿が映っていたことはありましたが、裏山に仕掛けた巣箱に入ってくることは想定していませんでした。
里山生物の専門家、守山先生によると、アオゲラなどのキツツキにとっても樹洞は不可欠なもの。体を休めるだけでなく、産卵しヒナをそだてる巣としても樹洞を使用するそうです。
そして、太い枝が折れた跡が朽ちて樹洞になることもありますが、キツツキがエサを取るため、開けた穴が広がって朽ちていき、フクロウやムササビなど大型の生き物が使える樹洞になることもあるそうです。
この巣箱が気に入ったのか?アオゲラは一度、巣箱を離れましたが2時間後、夕方6時前に再び戻ってきました。
日中に訪れたときよりも動きが少ないように見えます。そしてクチバシを羽の中にしまいました。どうやら眠りについたようです。
守山先生も初めて見るアオゲラの寝姿を撮影することができました。巣箱で眠りについたアオゲラはその後も頻繁に現れるように!樹洞を作るキッカケとなる、大事な鳥がすみついてくれたようです。
里のムササイビがまた出産!?
今年の3月中旬。巣箱の中に何かをくわえて入るムササビの姿が!実は、この姿、以前にもカメラがとらえていました。
それは去年の8月。ムササビが出産する1週間前、今回と同じように木の皮をくわえる姿が。
これは出産のための寝床を作る行動だったんです。夏の出産時には、連日一匹でせっせと巣材を運んでいました。
ムササビの交尾期は6月頃と12月頃の年2回。さらに交尾をする日はその期間のたったの1日。3月は、冬に交尾したムササビが出産するタイミング。
今回も1匹で巣材を運んでいると思ったら、なんともう1匹!前回は1匹で産んでいましたが、今回のムササビはオスとメスが一緒に子育ての準備をしているのか?
ムササビに詳しい哺乳類の専門家、後藤先生に映像を見てもらうと、この2匹は去年8月に出産した母親と、その時の子供という可能性があるといいます。
しかし、ここまで育つと見た目ではどっちが母か、判断がつかないそうです。
3月29日未明。一匹が巣箱で休んでいると、もう一匹のムササビもやってきて2匹で仲良くゴロゴロ。そしてそのまま丸1日2匹で過ごしました。
迎えた3月30日未明。この時も一緒にいた2匹。ここで動きが。一匹が外を気にしているのか、巣穴から顔を出す姿が。こちらが子供のムササビのようです。下であまり動かなくなったのが、お母さんムササビだと思われます。じっと動かない姿は、去年8月の出産の時と似ています。
その後、全く動くことなかった母親のムササビ。すると30日夕方の映像で、動く2匹の赤ちゃんを確認することができました。
専門家からみても、2匹が巣にいる状態で行われた出産は珍しいとのこと。
去年に引き続き今年も里にムササビの赤ちゃんが誕生しました!
ムササビの子育ての様子とは?
夏に続いて春にもカメラでとらえることができたムササビの出産。出産時に一緒にいた子供のムササビは、出産した日の夕方に巣箱から出ていき、母親ムササビによる赤ちゃん2匹の子育てが始まりました。
昼間は、赤ちゃんに寄り添っていたムササビ。出産の翌日の夜、自分のエサを取りに母親のムササビが外へ出ていきました。巣には…、生まれたばかりの赤ちゃんがいない!?
同じ日の日中には確かにいたのに、一体どこに行ったのか?そこで巣を出る前のムササビを見てみると、出発の1時間前には赤ちゃんの姿が確かにあります。するとそこから母親ムササビが巣箱の床を掘るような動きを始めました。しかも50分以上をかけて念入りに。実はこれ、巣材の中に隠していたんです。母親が出て行った後の巣箱を早回しで見てみると巣材の下がかすかに動いているのがわかります。
しかし去年8月の出産のときには隠す行動は見られませんでした。いったいどういうことなのか?後藤先生によると、子供はまだ毛がふわふわの状態になっていないので、1つは保温のためにかけてあげたというのがあるといいます。もうひとつはニオイなどを隠し天敵から見つかりにくくしている可能性も。
エサを取りにでかけても1時間以内に戻ってくるなど母親ムササビは子ども中心の暮らし。そして別の日には授乳をしている姿もみられました。ムササビの授乳だけで育つのは2ヶ月近く。その間、自分の餌も取りながら、子供を育てます。この子育てが落ち着く頃には、また次の交尾期に入るためムササビのメスは出産可能な年齢の2歳から出産と子育てを繰り返しているんです。
大変そうに見えますがメスのみが子育てするのには理由が。
後藤先生によると、オスとメスが1対1で丁寧に育てるよりも、年に2回産む機会があるメスがなるべく多く産むようになり、オスは子孫をたくさん残すために色々なところで子供作った方が将来的には自分の子供が残る可能性が高い。こういった所から進化していったのではないかとのこと。
ムササビの子育ては、自分の子供をより多く残すための形だったんです。