第1章: Mucha the Czech チェコ人 ミュシャ

イヴァンチッツェ地方祭

《イヴァンチッツェ地方祭》 1912年 カラーリトグラフ 93 x 59 cm (C)Mucha Trust 2013

ミュシャは1910年、50歳を迎えたところで最終的に祖国に帰るが、その背景には1900年のパリ万博を機にアール・ヌーヴォー人気が次第に下降線をたどり始めたこともあろう。しかしそれ以上に、祖国に「恩返し」をしたいという思い、また何より長年温めていた畢生(ひっせい)の大作《スラヴ叙事詩》に専念したいとの思いがあったようである。帰国後のミュシャは国のため、国民のためになるような注文なら積極的に引き受けた。これもそうした作品のひとつで、彼の故郷の町の「地方展」、今で言う物産展のためのポスターである。民族衣裳を着た少女が2人、こちらを向き、その後ろにはミュシャが少年時代から見ていた教会の塔が見える。宙に舞う紅白のリボンがお祭り気分を盛り上げているが、この地方展自体は結局開催されず、これもいわば幻のポスターに終わった。