ミュシャは美術教育、後進の指導にも関心があったが、稀代の売れっ子で、学校などで定期的に教える時間的余裕がなかったので、ならばと若い学生やデザイナーのため、一種の教科書、参考書、ハンドブックとして出版したのが『装飾資料集』である。刊行当時、別人の手になる「序文」はあったが、ミュシャ自身による解説のようなものはなく、もっぱら図版のみで構成されている。全体で72枚の図版ページから成るが、内容的には様々な衣裳・ポーズの女性(時に裸婦)、様々な表情の習作、植物や花、宝飾品や食器、カトラリーのデザインなど多岐にわたる。これをいかに装飾的にデザイン化するかの手本ともいうべきものである。好評に応え、この数年後にはこれの続編ともいうべき『装飾人物集』が出版された。