「ジョブ」はタバコの巻紙の製品名で、旧約聖書にある同じスペルの「ヨブ記」(Job、英語読みでは「ジョブ」)とは関係ない。タバコそのものではなく、その巻紙の宣伝ポスターというのも当時ならではである。商品の宣伝ポスターの場合、当然その商品が焦点となるが、タバコの巻紙では「絵にならない」。そこでミュシャが選んだのは、ジョブで巻いたタバコを吸い、陶然となる美女であった。タバコから立ち上る煙は文字通り「紫煙」として画面の上の枠いっぱいに広がっている。ミュシャ好みの美女であるが、ある意味でここでの主役は《『ラ・プリュム』誌版アート・ポスター:サラ・ベルナール》以上に強調された波打つロングヘアである。JOBの文字や、ジグザグのモチーフを繰り返した枠の部分は、これまたミュシャにしばしば見られるビザンティンのモザイクの応用である。