実況者は後ろ向き?!【箱根駅伝】あの気になる中継車の裏側を公開
2019年1月2日(水)・3日(木)あさ7時から日本テレビ系にて放送の第95回箱根駅伝。今回は箱根駅伝で活躍する中継車の全容を紹介。
駅伝の中継に映りこむ大きな車やバイク。いったいアレは何なんだ! 何をしているんだ! そして、アナウンサーや解説者はどこでレースを見ているんだ!…そんな疑問を解決。 実は様々な工夫が詰まっている中継車のすごさを紐解くとともに、現場でのこだわり・苦労など中継に携わるスタッフの声も紹介する。箱根駅伝がもっと面白くなる中継の裏側を公開!
中継車は1号車〜4号車が存在。その役割分担は?
■1号車と3号車はトラックベースの自動車
まず、箱根駅伝の中継車には1号車、2号車、3号車、4号車がある。うち1号車、3号車は日野のトラック(1号車レンジャー、3号車デュトロ)を改造した車。1号車は先頭を走り、1位の選手の様子や、いわば基本の映像となるレース全体(風景)の引きの映像を撮る。3号車は先頭グループの1位以外、10位までの間で、例えば、ごぼう抜きしているような選手など動きのあるところを常に追い続ける。どの選手を追うのかその場での判断が重要となる。
1号車
3号車
■2号車と4号車はトライク&バイクがセットで構成されている
2号車と4号車はそれぞれ3輪のトライク、2輪バイクの2台が1セットになった呼び名だ。ホンダのDN-01やヤマハのFZ-1 FAZERなどといった車種がベースとなっており、カメラマンが乗っているとトライク1台と、アナウンサーが乗っているバイク1台で構成されている。カメラマンが乗り込むトライクにある小物入れなどは全て自作で、必要な物が詰め込まれている。
2号車、4号車はバイクに2人乗りでアナウンサーが後ろに座り実況を行い、カメラマンが乗るトライクにつけられた装置(ミキサーなど)によってその実況の音声が受信点に飛ぶようになっている。
2号車は1号車の後ろを走り、2位や3位など首位を追う選手を主に追う。4号車は中継車の中で最後尾。レースの状況を見て上がったり下がったりと対応し、復路ではシード落ちかどうかギリギリの選手の状況なども追う。
これらの車は東京マラソン、さいたま国際マラソン、杜の都全日本大学女子駅伝など様々の中継でも使用されている。また、一部は24時間テレビのチャリティーマラソンの中継にも使用されている。
中継車の設備は?
1号車を例にとると、車の後方にいくつかの部屋がある。上部と下部にはそれぞれカメラマンが座る部屋。上部のカメラでは風景やグループショット、下部のカメラでは選手のアップなどタイトな映像を撮る。最上部にはアナウンサー、解説者、サブアナウンサーが座る放送席がある。
放送席は進行方向と後ろ向きに座る。高さがあり常に選手たちの動きを遠くまで確認することができる。
また車の運転席後方にミキサーなどが用意されており、音声、スイッチャー、ディレクターが座る。
運転席にも多くのモニターが設置。レースのペースによって選手との一定の距離を保ちながら運転する技術が求められる。
1号車の最大乗車人数は上部カメラマン、下部カメラマン、アナウンサー、解説者、ディレクター、スイッチャ―、音声、ドライバー、アシスタントドライバー、サブアナウンサーの計10人。
ディレクター、技術者へインタビュー
そして、今年1号車を担当する松本和将ディレクター(日本テレビスポーツ局)、原島伸光スイッチャー(日テレ・テクニカル・リソーシズ)、1号車下部のカメラを担当する今別府元気カメラマン(日テレ・テクニカル・リソーシズ)に、様々な疑問をぶつけてみた。
■1号車の特徴は?
原島:
移動中継に特化しているので、放送席など人が乗るスペースが多いです。また、一車線の道が特に箱根駅伝は多いので、一車線でも余裕が出るように作られています。車体が昔よりひと回りコンパクトになっていますし、中に積む機材もコンパクトになっています。長時間の中継に備えて発電機も搭載しています。
■カメラは全部で何台?
今別府:
1号車の後尾に上と下のカメラ(上カメ、下カメ)があり、さらに前カメという、万が一選手に抜かれた場合を撮るための前方のカメラもついています。3号車には後部に1台と、もう1台予備用のカメラがあります(編注:文中の画像で、上部に付いているようなカメラが上カメ、吊り下がっているようなカメラが下カメ)。2号車のトライク、4号車のトライク、それぞれにもカメラがあり、全部で7台です。1号車の下カメが42倍、上カメが23倍、3号車のカメラが40倍のズームが可能です。
上部カメラ
下部カメラ
■撮影する時の工夫やこだわりは?
今別府:
1号車の上カメで撮るのはベースの画です。この画が番組の基準になるので、常に安定した画を撮り続けないと、番組自体が不安定に見えてしまいます。足元のあき具合は常に一定で、レース展開によって選手のグループショットを撮るのか、後ろの道込みのレースサイズを撮るのか、または周りの風景込みの広い画を撮るのか常に状況を判断して画を撮り分けています。
原島:
箱根駅伝は都内から山までコースがあるので、風景をプラスすることで、どこを走っているかが視聴者の方にもわかるようにしています。また、お正月なので、忙しいイカット割りでは視聴者の方が疲れてしまいます。ゆったりと見せるということを心がけています。
松本:
私は地元が石川県で、お正月にはよく雪が降っているんですね。一方、東京はお正月に晴れますよね。そのお正月らしい様子を中継で伝えることで、おばあちゃんが「東京は晴れとってお正月っぽいね」と言ってくれたりします。「こんなに人がいるんだな」「シャツ一枚で応援している人がいるな」などといった風景も伝えられたらいいなと思っています。
■他のスポーツ大会と違うところは?
原島:
準備期間が長いことです。夏からテストをしています。
松本:
夏からテストを繰り返して、12月下旬には走行テストの合宿をします。山のところを1日で10往復したりします。準備を通してすごいなと思うのは、カメラマンはコースをよく覚えていることです。「左カーブだから撮れなくなりそう」「ここは富士山が見える」などと把握していて、自然に画を作ってくれるのです。
■大変なことは?
松本:
朝8時にスタートするので、遅くとも7時30 分に中継車に乗っていないといけません。そこからゴールする14時ごろまではトイレに全く行けません。年末年始は飲みに行く機会が増えますが、そこでも飲みすぎないようにという意識が働きますし、トイレに行かない習慣づけをこの時期はしています。
■心得は?
松本:
全チームのタスキリレーを見せるというのが箱根駅伝の中継のポリシーだと、最初に教えられました。2日間のレースで、トップがどこなのかというのはもちろん大事ですが、トップの交代とタスキリレーが被った時には、タスキリレーを大窓で撮って名前のテロップも出して、トップの交代は小窓で撮る、という優先順位になります。
原島:
全員が、ロードレースの最高峰だと思って誇りをもってやっていると思います。これだけのレースを4つの中継車でやっているのは誇りですね。
秋口から正月にかけて準備を重ねるとともに、その他にもマラソン大会の中継が多くあるためこの記事の取材中も、スタッフたちは準備を入念に進めていた。最後に、準備中のトライクに機材を詰め込んでいる様子を公開。まさにその場で装備が進められていた。
これらの中継車がお茶の間に箱根駅伝の様子をお届けする。2019年のお正月も中継にぜひ注目を!
第95回箱根駅伝
http://www.ntv.co.jp/hakone/