昨日とは全く別の場所に連れて来られた様だった。
目の前に広がる白銀の世界は、まだ、誰も足を踏み入れていない未開拓の地。初めての場所に、初めての訪問者。そう自分で思い込みながら、僕はその地に足を踏み入れた。
 地面に牙を剥く様に垂れる丈夫そうな氷柱や、細い木の枝にしがみつく雪、不思議なものがたくさん。そしてなんといっても、めり込むたびに、グググッと鳴く雪。心地よくて、駆けたり、蹴っ飛ばしたり、わざと転んでみたり。北登も同じく、駆けたり、掘ったり、顔を突っ込んでみたり。一人と一匹は、体全体で、手当たり次第その地を開拓していた。大雪は積もるのがあっという間。あっという間にDASH村を白くする。だからこの景色との出会いは、いつも唐突で、新鮮味がある。


 年の暮れも近づくこの頃。自分自身の今年一年を振り返ってみた。初めての畝作り、初めての田植え、初めての棟上げなど、初めてづくしだったはずなのに、それ程鮮明には想い起せない。どういう工程で、何に注意しながら作業したのか、頭の中で整理しきれていない。ただただ時の流れるままに、季節の変わるままに、動物たちと、自然たちと、共に暮らしてきたことだけが、漠然として頭の中にあるだけだった。なんだか不安になった。
 そんな僕に「でも、それでいいんだ」と明雄さん。いろんな“初めて”を体験した、それはきっと体が記憶しているから、と。それを聞いて来年への自信が湧いて出た。


 この冬を越えればここでの二年目の生活が始まる。驚いてばかりではなく、もっとたくましい村人を来年は目指したい。


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