古民家の土間にある、大きな木の箱には、マサヨと年末に産まれた仔やぎが暮らしている。仔やぎは箱の中を自由に歩いたり、寝ているマサヨの背中に上ろうとしたりする。そんな元気な姿を見て、ようやく新しい仲間の誕生を実感でき、心から喜べた。



 最初、僕が目にした時、仔やぎはマサヨの部屋で前と後ろ足を投げ出して横たわっていた。地面が凍っているのが、見なくても踏み心地で分かる様な寒い夜、とにかく家の中に連れて行き、仔やぎの体を温めた。投げ出した足もそのままで、鳴くことも無く、ただお腹が小刻みに震えるだけ。 専次郎さん、のり子さん、 三瓶獣医や、明雄さんの手を借りて、朝方になってようやく立てるようになり、鳴くようになり、マサヨの乳を飲み始めるようになった。何とか立っている状態から一歩また一歩とマサヨに近寄り、顔を上げて、口先で乳を探る仔やぎ。産まれて間もないけれど、必死に生きようと力を振り絞っていた。小さな命にここまで、生きようとする力があるものなのかと、感服した。

 そして、母であるマサヨは、その生命力を後押しするように、目一杯の愛情を注いでいた。どんな時も傍にいて、乳を与えるのはもちろん、毛をなめてやったり、水を飲む見本を見せてやったり、食べる見本を見せてやったり。母にしかできないことを、見事にこなすマサヨ。僕はいつの間にか、見ていて微笑んでしまう程、安心していた。



 新しい年を迎え、さらに冷え込む日が続くDASH村。外に出ると、10分としない間に、手の指先がうまく操れなくなり、すぐに長靴の中の指先もやられる。堪えられなくなって古民家に逃げ込むと、すぐ囲炉裏端で手足を温める。とろけそうな暖かさに、ついつい「幸せだな〜」と口から洩れ、幸福をかみ締める。そして、そのすぐ隣でも幸せそうな表情を浮かべ寄り添う母と娘の姿。マサヨと仔やぎも囲炉裏端が気に入ったようだ。



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