先週満開だった桜。花びらがゆらゆらと舞い落ち、今では緑色の葉の方が目立つようになった。暖い風に吹かれ、木を離れてゆっくりと地面に落ちる花びらは、とても綺麗でもあるけれど、少し悲しい。桜の絨毯に日本の心を感じた。



 桜の木を見上げていると視線の中に、まだ鬼瓦のない役場の屋根が入り込んでくる。



 役場には屋根へと上る足場がまだ組まれてある。僕は鬼瓦の成功の自信からか、もうこの足場から屋根に上ることもなさそうだと思った。そして、せっかくだから鬼瓦になったつもりで屋根に上ってみた。役場の屋根の上で何をするでもなく、ただひたすらボーっとしてみた。広い土地で周りの山も高いから、屋根に上ったくらいでは、そんなに景色は変わらないと思っていた。しかし、ここからは山羊小屋が見え、鴨小屋が見え、田んぼ、畑、果樹園が一度に見える。いつもは鳴き声だけが聞こえるけれど、ここからは鳴いているところも見える。人を意識しない、動物たちの本当の素顔を見られたような気がした。さらに、ここからは空が近い。ほんの少し高くなっただけなのに、視界のほとんどを空が占め、距離が近いというか、空を身近に感じることが出来た。
  屋根は上るためにあるのではないけれど、こういった非日常的なことをすると、いつも見ているものでも、いつもと違うものが見えてくる。花に顔を近づけてみたり、北登やこうめの目線になってみたりするのと似ている。
  傍から見ると、ちょっと変わった行動で変に思われるかもしれないけれど、そこにはいつもとちょっと変わった景色があり、ちょっと変わった趣があると思う。


 

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