今週、晴れた日のお昼に古民家内で書き物をしていた。座布団に座り、机にノートを置いてカリカリ書いていた。ずっと体を揺すっていた。前後に左右に休まず体を揺すっていた。そして、これには深いわけがあった。



 昼間、古民家内でじっとしていると、必ずと言っていいほど僕の視界に入ってくるモノがいる。その名はアブ。



その日、アブはずっと僕の近くを飛び回った。書き物をしているからか、視界の中をウロチョロされるのがもの凄く気になった。我慢して集中していると、そのアブは近寄ってきて、「ブ〜〜〜ン」とハエと似た音を僕の耳元で立てだした。ハエと似ているのだけれど、ハエよりもその音は大きく、激しい音だ。僕は「があああ!」と言いながら頭を掻いて何とか我慢した。しかし、その後すぐ、アブは僕の腕にちょこんととまった。「アブないっ!」と思って急いで振り払い、我慢も限界に達してそのアブを退治しようと探した。しかし、もう遅かった。きょろきょろしている僕の足の裏をアブは刺していた。かかと辺りだったから止まったのには気付かず、刺された激痛で気付いた。痛いのを我慢して、僕は丸めたノートを片手にその場に立ち上がった。すると、さっきまでやかましく飛び回っていたアブは急に姿を消し、すっかり音も聞こえなくなった。それでも僕は「油断できん」と手を振り上げたまま息を殺してじっとアブの音に耳を澄ました。二分くらいねばったけれど、アブは姿を現さないから、また作業に取り掛かった。取り掛かってすぐ、今度は逆の足の裏に激痛が走った。「くそぉ!」と思いながらも、戦う気力が失われ、僕はツナギの襟をたて、まくっていた袖を伸ばし、出来るだけ肌の露出を少なくした。さらに、アブが僕の体に留まらないように、休まず体を揺すりながら作業を進めた。




 

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