僕は21年間生きてきて、「生きた心地のしなかったベスト3」というものを自分の中で持っている。先日、そのトップ1に躍り出る出来事があった。


 畑、田んぼ、果樹園、村のいたるところに実る作物。今年は天候にも恵まれ、本当に順調だ。ただ、アイツをどうにかせねば、そのたわわに実った作物も水の泡となってしまう。



 今年は、いつもよりふた月も早く里山から下りてきたイノシシ。順調だった作物を食い荒らしていった。その食い荒らし様や、残していった足跡の数を見ても昨年よりも大勢で下ってきたようだった。僕は、夜中に大勢で作物を荒らすイノシシたちを頭の中で想像した。体長2メートル程の巨大なイノシシが両脇に子分を連れてノシノシあぜ道を歩いていた。
作物の匂いを嗅ぎつけ、畑の中に入り、「ブビーブビー!!」と叫びながらトウモロコシの茎をバキバキ折っている。恐ろしく強暴だ。ただの想像とは言え、目の前の傷ついた畑はそんな風に物語っていた。正直怖くなってしまった。

  しかし、このままだと村の作物が全滅するかもしれない。やらねばやられてしまう。そう思い、毎夜、TOKIOのみんなや明雄さん、スタッフと共に見回りに出かけた。 はじめ、畑と田んぼを見回ったけれど、思ったより怖くなく、案外いけるものだと思った。しかし、古民家から離れていくとだんだん恐怖心がよみがえり、昼間思い浮かべたイノシシが頭から離れなくなった。それでもどんどん里山のふもとへと進んだ。果樹園まで来ると、イノシシの視線も感じられるようだった。僕はいよいよ遭遇した時、どのように戦うかなどを考えていた。思い出したのは、近所の人の話だった。車でイノシシをはねてしまったけれど、車がへこんだだけでイノシシは平然と逃げていった、という話。やはりどう考えても勝ち目はない。でも弱音を吐くわけにはいかない。 そうやって見回りを続けること数日。ある夜、里山の木々の間で光るものを見つけた。微妙に動いている。パキパキと枝の折れる音も聞こえる。イノシシかもしれない。 僕たちは勇気を振り絞り、里山の中へと入った。いざとなればよじ登れる木を確かめながら。ゆっくり、ゆっくりと入っていった。枝が折れる音がしていたあたりまで来て、少し進むのを止めてじっくりあたりを見回した。すると、目の前にピクっと動く大きな影があった。イノシシだ。怖いと感じるより先に体が逃げていった。後ろから追いかけられているのか、イノシシも逃げていったのかも分からず、とにかく逃げた。


 そして、その瞬間が、僕の「生きた心地のしなかったベスト1」に輝いた。
 その夜を境に、イノシシたちは村にやってきていない。でも暗闇の中で、穂を垂れ始めた男米を狙っているに違いない。僕たちの夜の見回りはまだまだ続く。


 

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