土壌を良くするため、春にまいたアワとキビ。僕は見たこともなく、もちろん食べたこともない作物。しかし、話だけは明雄さんや孝子さんから聞いていた。食べ物が少ないとき、お米などの代わりに食べていたらしい。そんな話を聞いていたこともあり、僕は土壌のこと以上に、その味の方にとても興味があった。


他の作物に比べ、手をかけずにスクスク育つアワとキビ。風当たりの強い場所でもあったけれど、それに耐えて小さな小さな種は僕の背丈も越えるほどに育った。その力強さは明雄さんや孝子さんの力強さにどこか似ているようだった。


無事収穫し、ようやく食べられるようになったアワとキビ。いよいよ実際食べられることとなった。しかし、その味は少し苦くあまりうまいものではなかった。でも、その素朴な味は明雄さん、孝子さんの昔の話を聞くよりも、ずっとそのころの時代を覗けたような気がした。有難みのある味は、いつもよりいっそう残してはいけないという思いがした。 さらに、アワとキビは口の中でよく噛むと苦味が消えて甘味がでる。まるで先人の言葉のようにじわじわ体に染み入る。


里山からも畑からもすっかり緑が少なくなった。アワとキビを育てた水車上の土地も長い切り株が残っているだけで、殺風景になった。しかし、残った切り株を引っ張ってみると良く張った根が柔らかい土を絡めて出てくる。そして、そこには春にいなかったミミズの姿がある。アワとキビは確実に土を良くしてくれた。食べても、土にとっても本当に有難いアワとキビだった。


 

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