村に強い風が吹いた。僕は、その風が通り抜けるとき、冬を感じることが出来た。


 「風が冷たい」もちろんそれもあるけど、それ以上に今の季節を思わせたのは、風が起こす音。冬ではない季節だと、通り抜ける風にいろんなものが揺れて、互いにぶつかり合い、擦れ合い、ざわめいた。でもこの季節には、揺れてぶつかり合うものも、擦れ合うものも、ほとんどなく、ざわめかない。


 特に里山の木々は、葉がほとんどなくなって音もしなければ揺れもせず、ただヒューと風を通すだけ。地面の落ち葉ですら、もう風でカサコソ転がったりしなくなった。既に、木の根や、土手や、沢などの方へ転がされて、そこで留まっている。
 だから、風が通ってもヒュルヒュルという寒い音だけが聞こえる。もともと静かな印象を持っていたけれど、冬は本当に静かだった。


 でも、静かだからこそ、冬はいい。耳をすますと小さな物音が聞こえるように、小さな生命がよく見えてくる。
 役場の裏でひっそりと花開かせるサザンカも、殺風景なまわりからすると、よく目立つようになった。遠くからでも赤っぽいのが点々としているのが分かり、いつも目に入る。そしていつも「綺麗だな」と思い、「強いな」と思う。そして、春や夏に咲く花よりも注目され易く、少し得しているような気がして、「しっかりもの」とも思った。  この静かな冬は、綺麗で強いしっかりものにもっと出会えるような気がする。


 

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