立春が過ぎたものの、春らしいものなんて何もない。そう思っていた僕の前に、春を象徴するものが、突如として姿を見せた。
  それは、村長が陣取る水飲み場の下。「そこにあった」というよりは、「そこに落ちていた」「転がっていた」という表現の方が正しいような姿。

 コロコロコロコロ転がって、雪解け水にさらされて、泥を浴びて、それでもコロコロコロコロ転がってきて、ようやく水飲み場の石の下に挟まって落ち着いた。そんな格好をしている。だから、DASH村の春の訪れを経験していない人なら、「なんだ、これは?」と言って、摘み取ってから、「しまった・・・」と気付くかもしれない。それはこの村で、この時期必ずそこに姿を現し、春の訪れを告げてくれる「フキ」だということに。


 転がってきたわけでもなく、誰かが落としていったわけでもない。水飲み場の水がかかったり、それと一緒に泥がかかったりしているけれど、それは、雪の下でゆっくり生長していたフキ。

 垣間見える緑色は、今の村にはない、鮮やかで健やかで初々しい緑色をしている。まだまだ小さくて、丸っこくて、まるで石ころみたいだけれど、「春が近づいてきた」そう感じられる充分な色をしている。




 

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