「毒リンゴ?」 初めてこんにゃく芋を見たとき、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。最終的に食べるものを、そんな風に思うのは良くないかもしれない。けれど、こんにゃく芋は僕の想像している毒リンゴに、かなり近いものがあった。

 しかし、こんにゃく芋を育てる中で、僕の「毒リンゴ」説は間違っていたと分かった。夏、「毒リンゴ」からぐんぐん伸びた茎、そのてっぺんから広がった分厚い葉。これらは、畑にあるどの作物とも違った雰囲気を出し、毒リンゴよりももっと得体の知れない不吉なもののように見えた。 「これが本当にこんにゃくに?」そう思わずにはいられなかった。


 収穫し、実際にこんにゃくへと加工する時が来た。この時、驚いたのが、こんにゃく芋は素手で触ると手があれてしまうということ。驚いたけれど、これまでの僕の印象からすると、とても在り得ることだとも思った。我ながら、よくもここまで悪印象を持ち続けていられるなと思った。
  ところが、明雄さんの言うとおり、複雑な加工をひとつひとつ進めていくうちに、そんな思いも少しずつ消えていった。手触りがゼリー状になってきて、独特の香りが漂い始め、透き通る黒色になって・・・。いつの間にかザルいっぱいに、あのこんにゃくが出来ていた。

 売っているものとは違い、色も形も個性豊かだけれど、味も食べるとすぐにこんにゃくだ!と分かる程強い風味があった。 かたいような柔らかいような独特のあの食感と、馴染み深いあの味を楽しみながら、次につくる時は、「美味しそう」と思えるだろう。 ちょっと変わった格好をしているけれど、三年かけてもつくる価値が十分にある作物だ。




 

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