日当たりの良い斜面からは、水仙も顔を出すようになった。槍で突いたみたいに土の中からブスッと現れた水仙は、つぼみが大きく、時期が来れば村一番の大きな黄色を見せてくれそうだ。  フキや、水仙や、オオイヌノフグリや、いろんなものが村のあちこちを色づけていく中、田んぼもまた、本来の色を取り戻しつつある。

 毎春、くろぬりという作業をして、田んぼの土手をつくるけれど、その土手も見えなくなるほど雪が分厚く積もっていた。そんな白い田んぼも、先週あたりからだんだん土手が見え出し、今週には一角から茶色い土が見えるようになり、稲の切り株が久しぶりに見られるようになった。




 切り株を見て、「春だなぁ」と直接感じることはなかったけれど、その横で音を立てて流れる水は春そのものと言った感じだった。これ以上ない透明感と、キラキラと春の日差しを輝かせる雪解け水。田んぼに通じる竹筒から溝へと、勢いよく押し出されていた。触れると冷たいということは知っていても、「温かそう・・・」と感じてしまう。実際に触れてみると、かなり冷たいけれど、これがまた、春を感じさせる冷たさでもあった。

  僕は冬が嫌いと言うわけではなく、春を待つのが好きな人間だ。だから、植物が土から出てきたり、景色が変わっていくのを凄く楽しみにしている。ただ、そういう風な気持ちと正反対の気持ちも、僕の春を待つ気持ちの中にある。今週その原因を、発見してしまった。ただならぬ殺気を感じたのはビニールハウスの横。そして、やはりそこにいた。溝のなかで集まる小さな球体。その中には、まだおたまじゃくしにもなっていないゴマのような小さな小さなカエルの姿があった。仕様がないことだけど、毎年その卵の数を見ると気が滅入る。




 

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