里山がガヤガヤ騒いでいた。

 炭窯の煙が走っていた。

 果樹園の桃が楽しそうに踊っていた。

 水車の水しぶきが、遠くへ遠くへ飛んでいた。


 背の高いヒマワリがコクリコクリと居眠りしていた。

 穂が出たばかりの田んぼは大きな波をおこした。

 僕のいる縁側で、風鈴がちりんちりんとなった。





 ほんの数十秒の出来事だったけれど、涼しくて心地良いと思う少し前、村のみんなはそんな表情でそんな音をしていたことをはっきり覚えている。

 形も色ないものが通り過ぎて、村はいつもと違う様子だった。
 ただ揺れているだけではなくてとても自由な様子。
 チャンスをものにしたように、みんなやりたかったことをやっているようにも見えた。




 

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