「盆を過ぎたら正月だ」
 僕は色付く里山を見ながら、明雄さんが8月の終わり頃よく言っていた言葉を思い出した。「それは言い過ぎでは…」と、そのときは僕は思っていた。

 日中でも肌寒くなり、里山の木々が点々と色付き始めた10月。明雄さんの言葉に、今ごろ共感できるようになった。




 あの言葉を聞いた8月は、里山の緑、色鮮やかな畑、合唱するカエル、いろんなものが正月からは程遠いものばかりで気付かなかったけど、たった1ヶ月とちょっとで、こんなにも景色が変わり、棲む生き物も変わった。そして、今色付いている木の葉が地に落ちるのも、あっという間。そんな風にも思う。
 明雄さんの言っていたように、盆が過ぎればすぐに正月になってしまいそうだ。里山の点々とした黄や橙や赤いのを見ると、そう感じる。

 そして、明雄さんの言葉を理解できた喜びとともに、来たばかりの秋がすぐに行ってしまいそうで、寂しくも思った。  日に日に秋は深まってゆくけれど、深まりきればそれはもう冬の装いになってしまう。出来ればゆっくりゆっくり深まって欲しい。




 

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