「秋の日は釣瓶落とし」秋の日は暮れるのが早いということのたとえ。このコトワザの示す通り、秋の夕暮れは井戸へ桶が落ちるようにはやい。しかし、その一瞬の間には目を離すことの出来ない光景が待っている。

 西の空が薄っすら黄色になりだすと始まる。急に寒くなって、少しだけ辺りが暗くなる。黄色い西の空が今日は紫か、それともピンクかと迷って、今日の「今」だけの色になる。そうするとそれに照らされて、この村のありとあらゆるものも同じように、色に迷う。




 何色かは分からない。次の瞬間まで「今」は続かない。色も、明るさも、雲の形も、太陽の位置も、ピタリと止まったりはしない。

 何色かは分からない。けれど、あの枯れゆく紅葉みたいに秋の色をしている。爽やかな、心が安らいでいく色。それに照らされるもの全ても同じ。

 その秋色が、どんどんと濃くなっていって、どんどん縮こまっていく。そして、辺りの空の暗い色の中に消えていってしまう。

 西の空が黄色くなって秋色になり、消えてしまうまでのこの光景。その変化を目で追っている時は、ゆっくりとした時間に思えるのに、消えてしまうと、まるで一瞬だったように思える。見ていた光景も頭の中からすぐに消えてしまう。僕は何を見ていたのだろうかと、不思議な気分になる。けれどその時、心だけはいつもより穏やかになっているのが分かる。




 

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