草や葉が朝になると白く化粧をするようになった。
 そんな朝は、ひどく寒い。吐く息も白く、体は小刻みに震えるし、アゴもカタカタする。
 でも、陽が昇って暖かくなった頃には落ちてしまう化粧。寒さを我慢して白色の色気づいた草や葉を見てまわることにした。

 白色は近くで見れば見るほど綺麗で、細かくできていた。触れてみたくなるけれど、体温で直ぐに融けてなくなってしまう。触れずに、踏まないようにもして、そっと見て歩いた。
 村のいたる所で、葉や草だけでなく様々なものが化粧していた。全部が違う白色で、全部が綺麗だった。




 西の山の天辺が明るくなってきた。同時に、白い化粧もみるみる融け始めて、繊細な白色は直ぐになくなってしまった。
 けれど、化粧を落とした後には、白い化粧と同じくらい細かく綺麗な水滴が残っていた。
 水滴ひとつひとつは透明なのに、あまりに細かすぎて白色に見える。これもまた、白い化粧。

 でも、こっちの白い化粧がなくなってしまうのはもっと早かった。水滴は自由に葉の上を転がりながらひとまとまりになり、大きくなって葉の端から雫となってポトリと簡単に落ちてしまった。
 どちらの白色も綺麗で短命だ。
 そして、里山の木々の葉からポトリポトリと化粧あとの雫が次々に落ちる音。これも、とても細かくて、とても綺麗で、やっぱり直ぐに止んでしまった。




 

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