果樹園の一番端は牧草だけが茂り、まるで空き地だった。隣の梨より大きくつくられた棚もただそこにあるだけで、無駄なものに見えた。

 棚の下の弱々しい苗木は、生きているのか死んでいるのかも分からない状態が続き、2年前の冷夏に枯れた部分を切り取った時なんて、もうそこからぶどうができるとは想像もつかない程だった。

 けれど昨年から、痛めつけられた分を取り戻すかのように、それまではただの飾りだった棚にツルをたどり着かせ、そこからいくつもの葉を広げ始めた。そして今年は、数個のぶどうの実をみのらせるまでになった。「4年目にして、たったこれだけ?」そんなことは誰も思わなかった。あんなに弱々しく小さかったぶどうの木が、棚から紫色の実を垂らすその姿に僕らは喜んだ。冷夏の年も冬も、どんなにか細い命になっても、このぶどうは息を絶やすことがなかった。




 実らない時期を乗り越えて実りをもたらしたぶどう。ひと粒ひと粒に込められた甘酸っぱさも、今まで食べたぶどうにはない深みがあるようだった。そして、食べて初めてこの4年、ぶどうにとって無駄なんて何もなかったんだと思うことが出来た。

 もうすぐ12月。ますます寂しくなる村の景色。けれど、来年のために眠って体力を回復しようとしているだけ。陽の力が少ない冬も、みんな無駄なく生きている。




 

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