季節の移ろいに敏感な役場の裏には、春にお馴染みのオオイヌノフグリ。そして果樹園の奥の沢のほとりにはワサビ。この村の風景も日ごとに春らしくなってきている。

 ところが、日が落ちると冬は舞い戻ってくる。春らしいものが目に映らないこともあるけれど、とにかく気温はまだまだ低い。一日の疲れを癒してくれる夕日も、最近ではまた冬が迫ってくる赤い信号に見える。




 
 確かに寒いのはもう飽き飽きしてきている。でも飽きたからといって明日から夏にすればいいというものでもないし、そんなことはできない。だから先人たちはそんな気持ちを打ち消す知恵を残してくれている。

 「鍋を囲む」それだけで寒さを忘れてしまう。もちろんそのためにはいろんな準備が必要なのだけど、幸い先人たちの知恵をたくさん受け継いだこの村には、多くのものが揃っている。そして唯一なかった土鍋も登り窯が完成したことによってつくり出すことができる。「鍋を囲む」それをすることは、知恵やモノに溢れていた昔、こんなにも簡単なことだった。そして寒い冬の夜でも、夏のように汗をかきながらみんなで食と会話を楽しむことができたのだと思う。
 酒粕鍋を囲んで身も心もポカポカしたけれど、もっと他のことも感じ取れたような気がする。先人の知恵のひとつひとつがどんどんこの村を裕福にし、新しいものを生み出させているように思える。この村で新しい挑戦をすることは、春に野花が咲くことのように、とても自然なことかもしれない。




 

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