釘を溶かし、「クワ」と「ナタ」に形を変える。それは何も知らない僕にとって、とても単純なことに思えて、簡単に想像のつく作業だった。とにかく溶かして、赤い鉄を金槌でカンカン打てば良い。そんな印象だった。
もちろん、実際はそうではなかった。
一言で言うと、それは「力」と「素早さ」と「知識」、そして、それらから成る「感覚」が入り混じった、複雑で本当に奥の深い世界。どれか一つが欠けると、成り立つことが出来ず、すぐ傍にある「危険」と「失敗」に襲われる。それらに襲われると、取り返しがつかないけれど、それを恐れて「成功」はない。とても厳しい世界。成功を勝ち取った今ですら、鍛冶場には異様な緊張感を感じるほどだ。

 何も知らなかったからこそ、完成したものを使うことは本当に大きな喜びを感じる。今回自分たちでつくったものはもちろんだけど、今まで使ってきたクワやナタといった農具にも、同じようにその喜びを感じられる。他の農具たちも、あの緊張感溢れる鍛冶場から生まれてきたということを知ることで、僕の中で農具の全てが新しく生まれ変わったようだ。




 多くのモノづくりを経験しているからと言って、新しい事が容易くできる訳じゃない。それは、明雄さんが新しいものに挑戦する時の姿勢を見れば良く分かる。たとえそれを知っていようが、見たことがあろうが、挑戦するとなると明雄さんの目は真剣そのもの。先生にものを尋ねる時も、生徒のような目をする。明雄さんは僕とは比較できないほどの経験がある。それでもそういった謙虚な姿勢でいられるのは、その豊富な経験があってこそ出来る、一つの技のように思う。

 フキノトウに続き、今週にはフクジュソウが村に現れた。小さな黄色だけど、色の少ない今のこの村にはとても大きな黄色だ。
もうすぐ、いろんな色に溢れるだろうこの村で、早く種を撒いてほしそうに、手づくりのクワでつくった畑の畝がまだかまだかと待っている。

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