冬にまるで冬眠するかのように動きを止めた水車が、春の陽射しを浴びてようやく回り始めた。久しぶりの回転は、動きも音も少しぎこちない。水車も寝起きには弱いらしく、ギシギシと音を立てながら勘を取り戻すようにゆっくりゆっくり回りだしている。

 先週フクジュソウの咲いた役場前の斜面では、スイセンが顔を出し始めている。まだ、花開かせはしないものの、土の下からニョキっと出た姿はとてもたくましくもあり、独特の艶やかさもしっかりと持っている。あと1週間もすれば、スイセンはあの大きなつぼみの中にあるものを僕らに見せてくれそうだ。そして、今年も順調に春が軌道に乗ったことを強く感じるだろうと思う。




 今この斜面には、スイセン、フクジュソウ、オオイヌノフグリ、ハコベ、といった春の野花が勢ぞろいしている。冬にはただただ白いだけのこの斜面も、春の気配を早くから感じ取り、今とても華やかにその季節の中にいる。それは僕らの見えない土の中でだって、しっかりと生きていた証。毎年見ている花たちなのに、今年もまたそんな姿に驚きながら、感動させられる。自分の生きる場所と季節を知り、土の中でも土の上でも、ひたむきに精一杯生きるこれらの花たちは、「生きる」ということを僕らに教えてくれているようだ。綺麗と感じる他にも、春の花はそういったことを思わせる。

 多くの春が土の中から現れるようになったこの村で、じっとそれらを見つめている春のボス、桜がいる。南の土地の桜はもうチラホラ花を咲かせ始めたらしいけれど、この村の桜は丸っこいつぼみのまま。少しずつ膨らんではきているものの、1ヶ月経ってもそれほどの変化は見られない。しっかりと咲いてくれるのか心配ではあるけれど、満開になるのは毎年4月の下旬。まだまだ時間はある。きっと今、必死になって花を咲かせようと奮闘しているのだろうと思う。一ヶ月後、その成果を見られるのが本当に楽しみだ。目が覚めた水車もひたむきな斜面の花たちもようやく桜の出番と、じっと役場の前をみつめている。

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