DASH村初ともいえる洋食「パン」づくり。果樹園からリンゴ・ブドウ、畑の小麦・ライ麦、そして登り窯に手を加えて出来たパン窯。村の各所でつくられたそれぞれを活かした今回の挑戦は、見事にひとつの丸く柔らかく美味しいパンとなり、大成功をおさめることが出来た。

 でも、食べるまでに要した手間はやはり相当なもの。和食にはなかなか見られないあの見た目は、つくったものというよりもあの姿のまま木に実っていそうだけれど、それほど単純ではなかった。目に見えない菌を取り扱う繊細な作業と、それらを活かすために待つ時間と温度でつくられるパン。失敗と成功の境目が分かりにくく、勘も働かせた。それだけに、窯を開けるまでは本当に不安で仕方なかった。4年越しの実りだったブドウや、数の少なかったリンゴ、全てがパンへと変わる前に無となってしまうのかと思うと、パンが憎いとさえ思えそうだった。




 窯から自分たちでつくったパンが出てきた時は、ほっとする気持ちより驚きの方が大きかった。「見たことがある!」頭に浮かんだのはそんな言葉。何に使うか分からないただの白色の塊が、あの窯という不思議な箱に入って出てきた時には、食べるための香ばしくこげ茶色のものとなっていた。正に、魔法とはこのことではないだろうか。そう思った。
  初めてのパンづくりは最高の結果。その味は「見たことがある」見た目とは違って、「味わったことが無い」程の美味しいパンだった。

 パンのように膨らむのなら、役場前の桜のツボミもあの不思議な箱に入れてやりたい。それくらい桜の開花はまだ遠い。雨が多かった今週は、眠ったようにビクともしなかった桜のツボミ。果たしていつになったら咲いてくれるだろうか?
  晴男が村にやってきて、こうめが村を去り、季節は出会いと別れの季節。出来れば桜の花の下、迎え、送り出してやりたかった。桜の花言葉「精神的な美」。新たな場所で暮らす晴男とこうめに贈ってあげたい言葉でもあり、出会いと別れを同時に味わった自分自身にも言い聞かせたい言葉だ。

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