果樹園が今、八木橋一家のための牧草地として生まれ変わった。

 最近元気のなかった八木橋もこの牧草地では、一家の主ということを忘れ、一頭の山羊として元気に、そして無邪気に走り回っている。マサヨ、つかさ、リンダ、晴男もここではどこを散歩させるよりも楽しそうだ。

 最初は一頭だった山羊が今ではこんなに賑やかな大家族となった。今のようになるまで、この八木橋一家にはいろんなことがあった。嬉しい出来事も悲しい出来事もたくさん経験している。そうやって大きくなったこの家族から、僕は本当にたくさんのことを教わった。家族というもの、父というもの、母というもの、子というもの、生命というもの。今まで当たり前のように傍にあるそれぞれの存在の大切さを、この八木橋一家からは感じることが出来る。




 こうめが産まれた時、それをとても強く感じた。僕の膝の上で息絶えそうになるこうめは、とても力強かった。産まれてすぐ生きようとしていた。そして、生きようとする子に向かって母のマサヨは必死に生かそうともしていた。こうめとマサヨ、子と親、そしてそれは命と命。家族という命と命のつながりが、これほどまでに深く強いものだったということを直に感じ、それに勝るほど素晴らしいものはないと思えた。

 まさに八木橋一家は、僕にそれを直接うったえかけてくるような存在。 「人の家族も同じ」と。


 八木橋一家が牧草地で駆け回る姿に、一番大切なものをまた教えられているような気がした。

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