未だに去ることのない今年の梅雨は、例年になく強く激しい。どれほど晴れやかな気分であってもこの雨にだけは勝てそうになく、早く去ってくれと願うばかり。
  この小さな村でも、大きく羽ばたこうといている命があるのに、この空は何も知らずにただただ冷たい雨を降らせている。

 母屋の脇へと移したぶどうの棚、そこには二週間ほど前から緑色の毛虫がいた。いつもその下を歩くたび、落ちてこられると嫌だから毛虫の位置を確認していたけど、その日はずっとその場所から動かなかった。次の日、その毛虫はまだ昨日と全く同じ場所にいた。でも、昨日とは随分様子が違うのは、体の回りに繭をつくっていたこと。まだ途中段階で、中の毛虫が良く見えた。一生懸命体をモゾモゾさせて繭をつくってゆく毛虫は、名前も知らない蛾になるらしい。




 毛虫や蛾は好きという訳でも嫌いという訳でもない。あまり触りたくないことから言えば嫌いの方に入るかもしれないけれど、僕たちがブドウをつくるためにつくった棚で、懸命に羽ばたこうとしていることがとても嬉しく思える。僕たちが暮らすことは、自然の中に調和することだと再認識できた。

 この雨が降ってからはなかなか思うようにいかない様子ではあるけれど、何とか雨に負けず、立派な蛾となってもらいたい。新しい姿で新しい世界へ旅立って欲しい。そして、たとえ人に好まれなくても、ただひたすら自分の進むべき道を知り、そこへ向かって努力する姿を僕も見習いたい。

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