相変わらずの猛暑で村の住民たちはみんなくたくた。そんな中、めったに鳴かない八木橋の鳴き声と共に夏の猛暑をさっと打ち消すような冷たい通り雨が降った。それはかれらの家を壊してしまいそうな大雨で、雨が降った後村がまるで別世界のように見えた。女性で言うなれば、化粧する前とした後かもしれない。

 いつもは気にしない桜の木の下のクローバーがとても綺麗に見えた。太陽の光を浴びているのも綺麗だが、雨に濡れたクローバーは一段と美しい。四葉のクローバーを発見した時と同じくらい嬉しい気分になった。そして私も『雨もしたたるいい女』になりたいと思った。




 さらにこの雨で水飲み場の水が勢いよく流れ、水がキラキラと輝いているように見えた。それを特等席で見る村長がすごく羨ましくなった。
 そんな中、北登は雨上がりの涼しさを感じたのか、すごい目力(めじから)で「散歩に行きたい」と訴えてきた。そのくせ散歩をはじめてすぐ北登の足が止まった。視線の先にはとうもろこし、まるで「食べて下さい」と言っているかのようにいっぱいなっていた。

 今年は日照不足の影響もあって少し背丈が低めで実が生るか心配だったが、その心配をよそに大きな実をいくつもつけていた。私は「このぶんならお腹いっぱい食べられる」とほっとした。北登も同じ気持ちだろうと思い見てみると、やはりそのまま食べそうな勢いで匂いをかいでいた。「そんなに食べたいのか」と北登に言うと、全く聞き耳を持たずひたすら匂いをかいでいる。それにしてもかぎ過ぎじゃないかと思いそのとうもろこしに近づくと、なんと何者かによって食べられた後が・・・夏恒例のイノシシに襲われたには被害が小規模過ぎる。犯人はカラスかもしれないが、どうやら北登はとうもろこしの匂いでなく、この獣の匂いに反応していたようだ。北登はただの食いしん坊ではなく、優秀な刑事だった。これも冷たい雨の効果か?

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