アイガモ達の鳴き声で目が覚めた。
 外に出てみると、朝の冷え込みはもう半袖ではいられないほどで、なんだか寂しく夏が恋しくなった。汗っかきで蚊やアブにさされ放題の私は実は夏が大嫌いで、いつも秋を待ちわびていた。だから去年までは「秋だー、もう汗も出ないし、虻にもさされないし、食べ物もおいしいし・・」と秋の良いところばかり浮かんできていた。しかし今年はそんな気持ちが不思議と沸いてこない。夏が短かったせいだろうか?おそらく、人生悪いことや悲しいことがあってこそ、楽しいこと面白いことが引き立つように、夏の長い厳しさがあってこそ秋の喜びも増すのだろう、と思った。

 そんないつもより早く始まった秋が点々着々と村に色を入れ始め、カモ小屋の隣にあるイチョウの木が緑から黄金色に変わった。隣人たちもイチョウの美しさに魅かれたのか、じっとイチョウの木を眺めていた。そんな中、背中を向けているアイガモが1羽いた。「クロタロー」だ。今ではすっかり仲間と同じような綺麗な羽をつけた彼は、生まれたころ真っ黒だったのが信じられないくらい。おそらくクロタローは、「イチョウよりも自分の羽のほうが遥かに美しい」と自分に酔っているのだろう・・・・




 そんなクロタローの羽より美しいものを発見した。それは田んぼの黄金色。
 穂が垂れ始めたばかりと思っていた男米が、いつしか田んぼ一面の「黄金畑」になっていた。本当に、稲穂の黄金色は、紅葉の赤の美しさにも負けないくらい綺麗だ。
 しかし目移りするほど美しいものがいっぱいある村の中で、日向ぼっこの八木橋には1つしか見えていなかった。それは草ではなく「マサヨ」。草を食みつつも穏やかな眼差しでマサヨをみつめる。八木橋にとってはマサヨが一番美しいみたい。それにしても熟年夫婦は仲が良すぎる。

みなそれぞれ秋を満喫しているようで、気づくと夏のことを忘れている自分がいた。

前の週 次の週