秋雨がしとしとと降る夜は肌寒く、囲炉裏には炭が欠かせない。炭を取りに炭小屋方面に歩いていると、何かを足で踏んだような気がした。そっと足をあげて見ると、なんと海の生き物「ヒトデ」だった。ここは山の中、そしてもう秋、海からヒトデが自分で飛んでこない限りありえないことだと思い、もう一度ランタンの明かりを近づけて見てみた。

 するとそれは、「ヒトデの形」をした「栗のイガ」だった。完全に私の早とちりだった。それにしても、栗の実がとび出した後のイガの殻はヒトデの形によく似ている。私の目がおかしいのではなく、疲れているわけでもなく、夜だったら誰でも間違えるに違いない、信じて欲しい。

 そんなことを思いながらやっと炭小屋に辿り着いた。炭を持って母屋へ戻ろうとした時、すぐ近くの草むらで「ガサガサ」と変な音がした。雨が降っているだけでも夜の怖さは3割増しなのに、まさかイノシシ? 私に何か恨みでもあるのかなどと思いはじめたらますます怖くなって母屋に帰れなくなってしまった。




 人間は窮地に追い込まれるとマイナスのことばかり考えると言うが本当にその通りで、ひょっとしてイノシシではなく、最近はやりの熊か?とまで考えてしまった。しかし、マイナス思考のまま炭小屋にいるのも怖くなり、猛ダッシュで母屋まで走ることにした。

 「うおぉー」と叫びながら一気に走った結果、無事母屋まで駆け下りることに成功した。しかしその叫び声にびっくりして北登がすごい勢いで鳴きだした。寝ている北登を脅かすつもりは毛頭無かったが少し悪いことをしてしまった。ごめんなさい北登。

 そんな怖かった秋雨の夜も次の日になれば一転しているもので、昼間の秋雨は優しく、とても美しかった。そして、雨露に濡れた稲の穂もキラキラと輝いていた。なぜ秋雨は昼と夜でこんなに違うのだろうか、これこそ「女心と秋の空」ではないが秋雨もころころ変わる女心と似ているかも・・・

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