肌を突き刺すような寒さの中、西の空に輝く夕月夜。
冬の夕月夜は、一段と美しく見える。冷たく澄んだ空気の中で銀色に輝き、その輝きは「夏の花火」に負けないぐらい。そして、そんな美しい夕月は私たちを優しく見守っているよう。
  そんな美しい月の夜、おめでたい宴が村で開かれた。
それは、「明雄さん77歳の喜寿」のお祝い。DASH村を始めて7年の月日が過ぎ、明雄さんももう77歳。私が明雄さんの歳になるまでには、あと52年も生きなければならない。考えるだけで気が遠くなってしまう。そう思うとやっぱり明雄さんはすごい。

 明雄さんは何枚か昔の写真を見せてくれた。私達は、喜寿のお祝いとして、明雄さんが小さい頃撮ってもらったカメラで、もう一度写真を撮り、その写真をプレゼントすることにした。その写真は、カメラを探すところから始まった。やっとのことでカメラが見つかったと思えば、今度はカメラが古くて、フィルムが存在していないという事態。そのため、自分たちでフィルムを作ることになった。昔のフィルムは驚くことに「ガラス」でできている。今の黒いペラペラのフィルムからしたら本当に信じられない話。そんな信じられないものをやっとのことで作りあげ、写真撮影を迎えることができた。撮影も中々うまくはいかなかったが、味のある良い写真が撮れた。これで明雄さんのアルバムにまた新しい写真が加わった。明雄さんの人生の中に私も入れてもらえたことが、なんだかすごく嬉しかった。




 写真の他にも明雄さんへのプレゼントはまだまだあり、今年初収穫となった「赤米の赤飯」もとてもおいしかった。玄米の赤米が小豆と違うプチプチとした良い歯ごたえで、こんなおいしい赤飯は初めて食べた気がした。
  そして、忘れてならないのが「明雄寿司」。明雄さんの絵巻寿司を作るために太巻き修行にも行った。始めは、料理が好きな私でも無理かもしれないと思ったけれど、明雄さんに喜んでもらうためにも、毎日必死で練習した。その結果、立派とは言えないが、それなりに良いものができた。明雄さんが「おいしい」と笑顔で食べてくれる姿を見て、少し涙がでそうになった。諦めず作ってよかった・・・

 明雄さんが生きた77年間を1日だけの宴で祝いきることはできないけれど、明雄さんに笑顔で、楽しんでもらえて本当に良かった。「笑顔」というのはどんなものよりも人を元気にする力があるのかもしれないと思った。
 改めて、明雄さん77歳おめでとう。そして、これからもよろしくお願いします。
  私と同じ気持ちだったのか、障子の隙間から北登も顔を覗かせていた。できれば「料理の香り」ではなく「お礼の気持ち」であってほしい・・・

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