ほんのり冷たい風に漂う早春の香り。
里山の木々の隙間を潜り抜け、私の元に届く甘くて優しい香り。そんな匂いをかいでいると自分もなんだか優しい気持ちになれる。こんな優しい香りがこの時期に漂うのも暖冬のせいだろう。

 つかさの小屋の前には春の野草「オオイヌノフグリ」が既に小さな花を咲かせている。
青い花はキラキラと輝き、まるで夜空に輝く星のよう。
 こんな優しい春の香りも数日前までは、強くて寒い冬の風だった。
強い風は7年目を迎えた母屋の屋根の一部を吹き飛ばし、八木橋小屋の屋根までも吹き飛ばす勢いだった。




 母屋の屋根を修復することになり、初めて母屋の屋根に登ると、そこにはいつもと違う景色が広がっていた。今まで見たことがなかった景色。なんだかいつもより村が大きく見えた。そして、屋根の上はなんだかとても気持ち良かった。ここから夜空を見たらもっと星が大きくキラキラと輝いて見えるんだろうな。
 そんなことを思っている間に母屋の屋根の修復は終わった。
その母屋の前に修復したのはガタがきていた八木橋小屋の屋根。板の一枚一枚を見ると、八木橋とマサヨの歴史をあらわしているようにだいぶ年季が入っていて、「2人ももう結婚して6年なんだ」と改めて思った。短いようで長い6年。「おめでとう」という気持ちと「これからもよろしく」という気持ちをこめて一生懸命新しい板を打ち付けた。

 そんな気持ちを分かってくれたのか、八木橋は自分の角で屋根を叩いてきてくれた。しかし、その勢いはなんだかおかしい。よく見ると、いつもの角磨きだった。なんだか悲しかった。でもマサヨは分かってくれているようで、おとなしく小屋の中で待っていた。
 マサヨ、これからも八木橋を頼みます。そして、その温和な心で晴男リンダ夫婦もやさしく見守ってて下さい。

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