セミの鳴き声で目が覚める夏の朝。
眩ゆいばかりの太陽の光が役場の窓を抜けて差し込んでくる。
それはあまりに強く、目もあけれない程の光。でもこれが夏の日差しであり、梅雨明けの証拠。

 村の住人もみんな、この日を楽しみにしていた。それぞれに理由はあり、北登は「散歩がいつでもできるから」、八木橋一家は「牧草地でお腹いっぱい草が食べられるから」、私も「おいしいものが食べられるから」。
 そんな私の「おいしいもの」とは「そうめん」。
 冬のうちから仕込み、乾麺にして保存。そして梅雨を越え熟成されていよいよ食べ頃を迎えた。




 そうめんづくりは、簡単なように見えてとても難しかった。一番大変だったのは「湿度と温度の管理」。少し湿度が足りないだけでも、麺が乾燥し切れてしまったり、温度が少し高いだけでも麺が伸びなかったり、本当に麺を伸ばすのがこんなに難しいことなのかと、改めて手延べそうめんの奥深さを感じた。
 そんな中やっとのことで、細いそうめんが完成した。売り物のそうめんと比べると、太さもまばらで自信を持って「そうめん」とも言えないけれど、ある意味「そうめん」「ひやむぎ」「うどん」3種類の麺がセットになっているお買い得品でもある。
「どうか夏まで持ちますように」と願いを込めて、箱の中にしまった。その願いはそうめんだけでなく私自身に向けての言葉でもあった。なぜなら、このそうめんが熟成を終えて食べられる頃、私はちょうど村人一年目となり、そうめんが私の一周年記念品になるからだ。そんな意味でもこの日をこっそりと楽しみにしていた。

 半年近く熟成したそうめんは、腐らずちゃんと残っていた。そしてその味は優しかった。と同時に色々な思いが詰まったそうめんを自分の口で味わえた瞬間、なんだかとても嬉しかった。
  村人になり、色々な自然と触れ、すばらしさと同時に自然の怖さも知り、本当に私が村人で大丈夫かと思った時もあったけれど、今こうしておいしくそうめんを食べていられるということは、私は今村人であり、これからも村人なのだ。
 正直なところ、この1年間で自分がどれだけ成長できたかはまだ分からない。けれど、頑張っていればいつかは村の自然が私を認めてくれるはずだと思っている。それを信じて、今は頑張るしかない。2周年記念品はさらにおいしいものが食べれるように頑張ろう。

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