「もう夏は終わり」とばかりに聴こえてくる秋の音。
昼は風に揺れる田んぼの稲穂の音、夜はそこかしこの草むらから鈴虫やコオロギの音が、奏でられている。なんだか夏の音が懐かしく感じられる。

 私のイメージする夏の音は、雨が地面に落ちる音。セミやカエルの合唱。そして、お祭りで騒ぐ人達や花火の音。海で楽しむ声や、その中で聞こえる波の音。どれもとても賑やか。
 それに比べ、秋の音は夏のそれに比べて涼しげで、とても静か。夜はカエルの合唱ではなく、鈴虫の鳴き声。「リーンリーン」と綺麗な音が奏でられる。カエルの合唱を悪くいうわけではないが、鈴虫の音の方がどことなく高級感がある。例えるなら、オーケストラのコンサートに行っている感覚。聴いているだけで和やかな気持ちになれるからずっと聴いていたくなる。このまま涼しい夜風の中眠ってしまいそう。




 そんな子守唄のような虫音に負けないくらい綺麗なのが「秋の月」。秋というのはなぜ、月がこんなに美しく見えるのだろうか。夏の月の倍以上の輝きがある。そんな月を見ながら、オーケストラのような虫の鳴き声を聴いているとこの上ない幸せを感じる。鑑賞の秋もなかなかいいものだ。

 そんなことを思いつつ縁側で一人鑑賞会を開いていた最中に、おいしい香りが流れてきた。どうやらかまどのご飯が炊けたみたい。鑑賞の秋と言ったばかりなのに、私のお腹は食欲の秋に反応している。私には鑑賞の秋はまだ早いみたい。

前の週 次の週