食欲の秋と言うだけに、最近は食べても食べてもお腹がすく。
里山のふもとの登り窯から立ちこめるいい香りに思わずお腹が鳴ってしまった。 その原因は、パン窯の中にある「ピザ」。ピザと言えば、欠かせないのが「チーズ」。
 今年の夏は、はじめてのチーズづくりに挑戦した。チーズの原料はミルク。今年はマサヨが3匹のかわいい仔山羊を産んでくれたということもあり、マサヨからミルクを分けてもらうことにした。

 ヤギのミルクを搾るのは生まれて初めてで、どう搾っていいか全く分からなかった。その緊張が手に出てしまい、何回搾ってもミルクが出ない。明雄さんにコツを教えてもらっても全く搾れず、スムーズに搾る明雄さんを見て思わず嫉妬してしまった。ミルクがなきゃチーズができないのに、チーズをつくる前から挫折してしまった。
 そんな私が落ち込んでいる間に、チーズが作れる量のミルクは搾り終わり、チーズづくりは始まった。ヤギのミルクの中に「乳酸菌」と「レンネット」を加え固める。
そして水気を抜いていけば、あっという間にチーズの塊ができた。後はこれを秋までカビないように保存するだけ。




 でもその保存作業が大変だった。梅雨の湿気でチーズがカビて、夏の暑さでまたカビた。拭いても拭いても出てくるカビに、このままだとチーズが全部なくなってしまうのではないかと心配になった。そこで、これ以上カビが出ないようにするため、一か八かでチーズを村の蜜蝋でコーティングした。それが見事「吉」と出て、無事チーズを口にすることができた。
 はじめて作ったチーズの味は、ヤギの味だった。本来なら「あっさりしていて、コクがあり」などと気の効いたことを言うべきなのだろうが、香り、味ともに何回食べてもヤギの味としかいいようがない。大げさだと思うかもしれないが、本当に口の中にヤギがいる感じなのだ。

 そんなチーズを食べていると色々なことが甦ってきた。「さくら子」「もも子」「うめ吉」が産まれた時のこと。3匹がはじめて生草を食べた時のこと。「もも子」「うめ吉」が死んでしまった時のこと。嬉しいこと、悲しいことがいっぱい甦ってきた。そんな思いを胸に有難くヤギのチーズを食べさせてもらった。そんな思いが詰まったヤギチーズは、やっぱりヤギの味だった。でもヤギといっても、どこにでもいるヤギではなく、「八木橋」「マサヨ」「つかさ」「リンダ」「晴男」「さくら子」亡くなった「もも子」「うめ吉」八木橋一家みんなの味がした。

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