ひんやりと柔らかい秋風が村を包み、ススキが気持ちよさそうに揺れている。 そんな風に誘われて里山の枯れ葉も舞い始め、赤や黄色のじゅうたんがあぜ道に敷き始められた。
 私は夏色のあぜ道も好きだけれど、秋色のあぜ道も好き。赤や黄色の枯れ葉が彩る美しさは心を癒してくれる。まさに芸術の秋という感じがする。ふだん食欲の秋しか考えていない私でも、惹かれるものがある。

 里山のキャンバスで最も芸術を感じるのは夕刻。
 夕日にてる山、赤く染まる火の見櫓もいいけれど私は秋の夕日そのものが好き。
 赤色の太陽は、時折黄金色に見えたりもする。ずっと見ていると、そのまま吸い込まれてしまいそう。それぐらい魅力的だ。




 でも私にはそんな夕日よりももっと好きなものがある。それは、空気。秋の夕方の空気は澄んでいて本当に気持ちいい。嫌なことばかりあった日でもその空気を吸えば、全て忘れて、明日も頑張ろうという気持ちになれる。本当に不思議なものだ。その空気は目をつぶっていても感じることができる。頬にふれた時のあのひんやりとした感じ。なんとも言えない心地よさ。
 そして、そんな空気からはとてもいい香りがする。稲穂の香り、枯れ葉の香り、ススキの香り、色々な香りでいっぱい。
 目だけでなく、耳や鼻、触感でも楽しめる秋はやっぱり素敵だ。このままずっと秋が続くといいな。


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