静けさの中に響き渡る鳥の声。
春が近いせいか、可愛い野鳥が目につくようになってきた。
黄色、白、オレンジ、色とりどりの野鳥。

 そんな中、季節の終わりに去っていく冬の渡り鳥「ジョウビタキ」がまだ村に留まっている。居心地が良くて、なかなか次の場所に飛び立てないのか。それとも、村の寒さがちょうどいいのか。もうしばらくいてもいいよ、とひとりつぶやく冬の日に欠かせないのは、あったかい汁物。やっぱり寒い夜にあったかい汁物は最高の組み合わせ。そして何よりも自分で作った木地のお椀で食べられることの喜び。
 そんなお椀を手にすると、体だけでなく心まで温かくなる。
 でも、このお椀1つ作るにも一苦労だった。




 木を掘るという作業は今までに見たことない刃物を使っての作業。
 手に力を入れすぎて、はじめてすぐに小指がつってしまった。でも昔はこの仕事を女性がやっていたということを聞き、本当に驚いた。10s近い刃物を1日中振り下ろすなんて簡単にできることではない。力仕事だけには自信があった私だけに、自分の力の無さにショックを受けた。そして、昔の女性は心も体も本当に強いのだと改めて感じた。私も、昔の女性のような強さを持ちたいと思う。

 やっとのことでできたお椀は残念ながら売り物のようにはならなかった。でも、私の手にはとてもあっていて、そんなお椀を持つと木の温もりと香りが伝わってきた。削れば削るほど綺麗な木目が出てくる木地。本当に作って良かったなと思った。
 そんなことを思い返しながら汁物を食べていると、母屋の外から「ワン」という北登の声が聞こえた。
 北登にも、欠けてしまったとはいえ手づくりのお椀で、汁を入れてあげた。嬉しそうにしっぽを振って食べていた。この喜びは、お椀の喜びだろうか、それとも汁の喜びだろうか。まあ、どちらにしても私の手づくり。嬉しいからいいことにしよう。

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