「見えない夜に 見えて来るもの」

村に来て夜の暗さに驚いた。
辺りが真っ暗闇で1ミリ先も見えなくなり、自分が暗闇の一部になってしまう。目は役目を果たせなくなるので途端に不安に襲われる。
夜は暗いのは当たり前。でも真っ暗闇の中で動くのは容易ではなく、見えるありがたみを心の底から感じた。ランタンを使っていても、その火が消えてしまった瞬間また暗闇の中に取り残される事になるので消えたらどうしようという不安に駆られる事がある。

昼間は普通に歩いている場所なので、頭の中で場所を思い出しつつ何も持たずに暗闇の中手を伸ばし足を進めてみても、一向に目的地に辿り着く事もなければ見当違いの場所にいたりする。この間、灯りなしに歩いていたらもう少しで田んぼ脇の水路に落ちそうになったこともある。目が使えないとなると頼りになるのは音だけ。氷が溶けて再び動くようになった水車や村長がいる水場など水の音は響き渡り暗闇の中だといい指標になる。




夜の暗さに驚くと同時にもう一つ驚いた事がある。
それは月の明るさ。今までは電気がある生活が当たり前になっていて、その明るさに気が付いていなかったが、25年生きてきて月がこんなにも明るかったのかと初めて実感し驚いた。三日月でさえ出ているだけで辺りは明るくなるし、満月の日になると誰かがどこからか灯りを照らしてくれているのではないかと思うほど明るく感じた。

昼間は太陽の明るさに打ち消されてしまうが、太陽が沈み、辺りが闇に包まれると太陽に代わって辺りを照らす。その光は太陽とは比べ物にならないが、村で暮らす僕にとって暗闇の中不安な気持ちを持つ事もなく夜の活動を行う事が出来る。そんな月の明るさに驚くなんて村で生活しなければ分からなかった事だろうな。

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