「10代目 アイガモ隊 デビュー」

ここ最近、子どもの頃に観た「グース」という映画がよく頭に浮かぶ。
内容は、森林伐採の影響で暖めていた卵を途中で放棄したグースの代わりに一人の少女がタンスの中で卵を孵す。それから親代わりとして産まれたヒナの生長を見届け、飛行訓練までも教えるというものだった。
その映画のような事が村でも起きた。今年の異常な気象のせいか親鳥が卵を暖めなかったので、卵を暖め世話をする親代わりの一役を担ったのだ。

しかし、実際にやってみると、本当に繊細で難しい。親鴨は餌も食べず、やつれながらも卵を孵す。この代わりをやるのだからそれはもちろん簡単ではないはずだ。しかし親代わりになるという事は、命に関わる事なので孵さなければいけない。責任は重大だった。




一番の難題は温度と湿度調整。ちょっと目を離しただけでどちらかが減少している。その度に湯たんぽのお湯を替え、おしぼりを温める。そういう張りつめた28日間を過ごして来ただけに、固い殻を自力で少しずつ割りながら出て来たヒナ達を見て、思っていた以上に感動し、そして、安心もした。出て来たばかりのヒナ達はまだ弱々しかったけれど、どの雛も逞しく生きようとしていた。最初は、人の手で孵すなんて出来るかどうか正直不安だったが、孵る雛が一羽ずつ増えていくのを見ながら、映画の中の少女と同じように満面の笑みになっているのが自分でも分かった。

遅れて10羽目のカモヒナも無事に孵ると、それからは限度がないのではないかと思うほどの食欲ですくすくと育っていった。しかし、今年は天候不順で田植えが遅れたので、例年よりも少し遅めの田んぼデビューになった。デビューした瞬間から、視界に入った虫たちを全力疾走で追いかけて行くのを見て、また自然と笑顔になった。ふぶきに続き2度目の命の誕生と成長を見守り、村に来て大事な思い出がまた一つ増えました。

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