命にかかわる虫刺され
去年の8月。ミスユニバースの日本大会。
この華やかな舞台に立つ1人の女性…大久保沙織さん、当時26歳。
颯爽と健康そのものに見える彼女だが…実は命にかかわる、ある病を乗り越えての挑戦だった。
杉原アナが彼女の自宅を訪ねると…早速気になったのが11月だというのに、玄関のドアに2つも取り付けてあった虫よけ。
なんと彼女は蚊に刺されてはいけないのだという。
なので、部屋の入り口にも、ベランダにも、虫よけだらけ。
なぜそこまで徹底して蚊を避けるのか?
実は彼女、蚊に刺されると命にかかわる病と闘っていた。
1歳の時、重度のアトピー性皮膚炎と診断され様々なアレルギー症状に悩まされてきた沙織。
そして衝撃的な症状が出始めたのは活発に外で遊ぶようになった4歳のころだった。
なぜか、足がパンパンに腫れている。
やがて傷口は火傷した時の火膨れにようになり沙織はぐったりと元気がなくなった。
夜になると、40度もの高熱を出し脇の下から足の付け根にかけてのリンパが腫れ、激痛が襲った!
医師は、まだこの時は蚊に刺されたのが原因だとは思わなかったという。
そんなある日、蚊に刺された。
しばらくすると、刺された跡が腫れ上がり火膨れができた。
さらに、40度の高熱とリンパの痛み…あの日と同じ症状だと両親は思った。
このことを医師に伝えると、蚊に刺されたことが原因でアレルギー反応を起こしている可能性があるという。
それ以来、両親は細心の注意を払い虫よけを徹底したが、それでも刺されてしまう。
そしてある法則がわかった。
蚊に刺されると病院で、点滴などの処置をしても必ず発熱とリンパの腫れが。
そして熱が出るのは刺された6時間後で、その後24時間で症状は治るのだ。
蚊に刺された痕はすべて残っているという。
実は…この蚊への異常な反応こそが、のちに明らかとなる恐ろしい病のサインだったのだ。
夢を叶えた彼女に付きまとう不安
2016年に大学を卒業した沙織は夢を叶えた。
アナウンサーとしてNHK和歌山に採用されたのだ。
ロケなど外に出る時は肌を出さず、虫よけスプレーをしっかりと吹きかける。
もちろん、携帯用虫よけも持ち歩いた。
それでも刺される恐怖は消えなかったが、沙織は仕事が楽しくて仕方がなかった。
しかし一方である症状に悩まされていた。
それは数年前から妙な体のだるさや倦怠感があり、年々ひどくなっていたのだ。
喉が腫れて痛い。声が出にくくなるというアナウンサーとしては非常に辛い症状もあった。
そして、自分の体調に不安を感じていたある日、ふと仰天ニュースでも紹介したある女性の闘病生活を知った。
それは人気声優の松来未祐さん。
数々のアニメに出演し熱狂的なファンを持つ彼女は、2015年にある稀な病で亡くなった。
松来未祐さんは夜になると高熱が続き首のリンパ節が腫れたり声が出にくくなったりなどの症状に苦しんだという。
沙織はそれらが自分の症状と似ていると感じたのだ。
その後、この病気を詳しく調べてみた。
この病の兆候と言われるものに、驚くべき症状があった。
それは、蚊に刺されると発熱や異常な反応を示すこともある、というもの。
ずっとただのアレルギーだと思ってきたが、もし自分もそうなら…。
そう考えると急に恐ろしくなった。
そして、彼女の運命を変える出来事が!
いつものようにロケに出ていた時…ズボンと靴下の間のわずかな隙間を蚊に狙われた!
すぐに大きく腫れあがり、いつもと同じように6時間後に高熱が出た。
しかし、普通なら1日で下がるはずの熱がこの時は2日も下がらなかった。
もしかして、松来さんと同じ病が自分にも進行しているのかもしれない…。
恐怖が増した沙織はすぐに検査を決意したのだが、1年に30人ほどしか発症しない稀な病のため診断できる病院が少なく、ようやく診てもらえる病院を大阪で見つけた。
そして、血液検査の結果を受け医師は彼女にこう告げた。
沙織の病は予想通り、松来未祐さんと同じ慢性活動性EBウイルス感染症というものだったのだ!
夢を失った彼女が新たに得た目標とは?
EBウイルスとは、ごくありふれたウイルスで日本人成人のなんと9割以上がこのウイルスに感染している。
主に唾液を介しての感染だがほとんどの人には症状が出ない。
しかし、体内に入ったEBウイルスが、「通常は感染しないとされる細胞」に感染してしまうことで細胞が勝手に増えたり活性化して、熱や炎症反応を引き起こす。
これが慢性活動性EBウイルス感染症という病。
血管、肝臓、皮膚などで炎症が起こり、高熱や激しい倦怠感が続く。
進行すれば、白血病や悪性リンパ腫になり死に至ることも。
医師によると、治すためには骨髄移植しかないという。
急激に進行するのがこの病の特徴。
声優の松来未祐さんは骨髄移植は間に合わず、発症からわずか2年で亡くなった。
沙織の場合、発症から20年程経過していると思われ一刻も早い移植が必要だった。
幸いにもドナーはすぐに見つかったが治療は東京の病院になったため、たった1年でアナウンサーを辞めざるを得なかった。
夢だったアナウンサーをやめなければいけない…彼女はこれから何を目標に生きたらいいんだろうと思うところまで落ち込んだという。
こうして闘病が始まった。
移植の準備のために、抗がん剤治療や放射線治療を始めると髪は抜け、歩くことさえままならない。
そんな苦しい日々の中、生きる目標となったのがミスユニバースの世界大会。
自分も復活したらミスユニバースに出ようという新たな目標をもって治療を受けていたという。
憧れたのは華やかさだけではなく、ミスユニバースに出場し影響力のある発信者になれれば、この病気のことを世に知らせることもできるのではと考えたのだという。
あの舞台に立ちたい、その一心で治療に耐え移植手術は無事成功。
弱った体のリハビリを続け、昨年ついに夢の舞台に立ったのだ!
骨髄移植は成功したが、年間約30人しか発症しないという稀な病と戦い続けている大久保沙織さん。
現在はミスアース群馬として活動しながら病気について発信し続けている。